昭和の終わりにタイムトラベル
◇◇ショートショートストーリー
サクラはこれだけは失くしたら大変だと携帯を握りしめていました。「昭和の時代に行ってみないかい」夢の中で出会ったおじさんに言われたのです。
サクラは、「うん、興味がある、昭和に行ってみたい」と言うとそのおじさんは「この時代に戻って来るには携帯を失くしたらあかんよ、それが時代のつなぎじゃけんな」と言われてとにかく携帯だけは握りしめていたのです。
「レッツゴーが合言葉よ、声を合わせてレッツゴー言うんぞね」
サクラは、そんな言葉は今どき言わないんだけどと思いつつ、取りあえず合言葉の「レッツゴー」を叫びました。
その一声でサクラの体はきりもみされながら暗闇に吸い込まれていきました。
そして、一瞬の内にタイムスリップしたのです。
テレポートしたのは街の中心にある商店街の入り口でした。
サクラはテレビの懐かしの映像で見た記憶があるワンシーンを目撃します。
テレビ局のリポーターが喪服を着て神妙な顔でリポートしています。大型ビジョンには東京、大阪、仙台、北海道と各地の表情が映し出され、リポートは絶え間なく続いています。
「天皇陛下が今朝、崩御(ほうぎょ)なさいました、愛媛県松山市でも天皇陛下ゆかりの道後温で・・・・」
サクラは驚きました。街が静まり返っているのです。街の音がほとんど無く、ネオンサインも消えていました。
彼女がタイムトラベルしたのは昭和64年1月7日、昭和最後の日でした。翌日には元号が平成に変わったのです。
1989年が始まったばかりで、前の年にはソウルオリンピックが開催され、東京ドームが完成し、ドラゴンクエストが社会現象になっていました。長渕剛の乾杯や光GENJIのガラスの十代が大ヒットしていた頃です。
サクラは、おばあちゃんが住んでいた家をこっそり覗いてみました。おばあちゃんは民放のテレビにくぎ付けでしたが、コマーシャルはいっさい流れていません。その様子を見てサクラは面食らっていました。
「へー、そんなことがあったんだ・・・、民放でコマーシャルが放送されないなんて・・・」
30代の頃のお祖母ちゃんとまだ5歳だったお母さんのユリを見て不思議な気持ちになったサクラ。
そこにご主人が帰ってきました。「只今、今日は大変じゃったんぞ、お前、疲れたわい朝からずっと立ちっぱなしよ、いつ中継が来るかわからんけん常に緊張しとらんといかんかったんよ、カメラマン泣かせじゃわい」
サクラはその人の顔を見てびっくりしました。「あれっ、私をタイムトラベルに誘ったおじさんじゃない、あれ、私のおじいちゃんじゃったんか・・・」
おじいさんはサクラが生まれる10年前に、40歳という若さで不慮の事故で亡くなっていたので、サクラにはおじいさんの記憶が全くありませんでした。
まじまじと見ると男らしい顔立ちでがっちりとした体型の頼りがいがある雰囲気の男性でした。
「おい、今日は俺がユリちゃんをお風呂に入れるけんな、出てきたらちゃんと面倒見てやってくれよ」と言うと子どもを抱きかかえてお風呂に入っていきました。
「おーい!シャンプーハットが置いてないぞ」またまた大きな声が聞こえます。お祖母ちゃんがしとやかな声で「ハーイ!分かりました、長湯したらいかんよ」そんなやり取りをしています。
サクラはおじいちゃんとおばあちゃんの仲のいい姿が見られて嬉しくなりました。
おじいちゃんは子どもを連れて湯船から上がってきて、お祖母ちゃんに言いました。「お前、いつか孫ができても、俺がお風呂に入れるけなー」と。
サクラはその言葉を聞いてちょっぴり恥ずかしくまた嬉しくなって照れ笑いをしていました。「孫って私のことじゃない・・・」そう思っていると
突然おじさんの大きな声がします「残念じゃけど、そろそろ帰る時間じゃわい、合言葉はレッツゴーぞ、ええか、携帯にぎっとけよ、レッツゴー」
サクラが合言葉を言うと同時に、来た時と同じように、暗闇の中でキリキリともまれます。
気が付くとサクラはベッドの上で携帯をしっかり握りしめていました。
「なーんだやっぱり夢か・・・」と思って、スマホの待ち受け画面を見ると、湯船の中でおじいちゃんにだっこしてもらっている5歳のお母さんのかわいい笑顔が映っていました。
サクラはそれが夢なのか現実なのか今も分かりません。でも令和から昭和へのタイムトラベルはサクラにとってたまらなく愛おしい時間でした。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《私にとって昭和は愛着がある元号よ》
大好きな鯛のお吸い物で夕食を食べた後のばあばとの会話です。
「私は昭和の時代は良かったんよー、人の人情が厚かったし、親子の絆も深かった気がするねー」
「ほーじゃねー」
「昭和、平成、令和、私にとっての元号は、昭和が愛着かあるんよね、それぞれの時代に即して生きてきたけどねー」
「お母さんは何時の頃に戻ってみたい」
「私は昭和30年代に帰ってみたい、子育ても地域に人との交流も、田舎におったけん、楽しかったんよ」
母にとっては昭和がとても懐かしいようです。私も昭和の時代の人と人との関係には愛が深かったように思います。
【ばあばの俳句】
イラストを夢中で描く夜半の夏
母はイラストを描き始めると時間を忘れることが度々あります。夜遅くリビングに行くとひたすら描いている時もあって、びっくりします。
母にとってイラストと向き合っている時間は時を忘れるくらい楽しい時間なのでしょう。
何か素敵なアイディアは無いかといつも考えているようです。今回のイラストもまた、新しいアディアなのだと思います。楽しいものに出会えて母は幸せです。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗