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金曜日のピアノの調べ
◇◇ショートショートストーリー
リエは潮風を感じながら歩くこの坂道が大好きです。自宅までの道のりの曲がり角にあるレトロな洋館の前をいつもゆっくりゆっくり歩いて通っていました。
その洋館からはまるでピアニストが奏でるような素晴らしいピアノ曲が流れていました。リエは嫌なことがあって沈んでいてもいつも、その坂道でピアノの音色を聞くと何故かパワーが湧いてくる、力強くかつ繊細で癒されるピアノ曲でした。
リエは中学生の頃に海が見えるこの団地に引っ越してきてから4年間、洋館からのピアノ曲を聞くようになって、いつの間にかピアノの魅力にはまったのです。でも、そのピアノの音色を聞くことができるのは何故か、いつも金曜日の午後でした。
リエは、小さい頃からお母さんの勧めもあって、ピアノを習っていましたがレッスンに通うのは嫌で仕方がありませんでした。ところが洋館から奏でられるピアノを聞くようになってからは、その音色に魅せられて、音楽の道に進むのもいいかも知れないと思うようになっていました。そう思ってしまうくらい金曜日の午後のピアノ演奏には惹かれるものがあったのです。
ある時リエがその洋館の前を通ると、グレイヘアの上品な女性が庭のバラに水やりをしていました。4年間で初めて洋館の住人に会ったのです。
リエは思わずその女性に声をかけました。
「こんにちは、私ここを通る時に、いつも素敵なピアノ曲を聴いているんですけど、ピアノはどなたが弾いていらっしゃるんですか・・・」
「あら、あたな聞いていらしたの、弾ているのは私ですよ」
「えっ、あの演奏は・・・、あなただったんですか・・・」
「ええ、私の職業はピアニストなのよ、普段は街中に住んでいるんだけど、週末だけ、ここでのんびりしてるのよ」
「あー、そうでしたか、私、ここを通るようになって、ピアノが大好きになって、それで音楽大学を目指すことにしたんです、今日お会いできて夢みたいです」
「そう、あなたは、どなたにピアノを習っていらっしゃるの」
「山川先生に教えて頂いています」
「あー、山川さん、彼はねー、私の教え子よ」
「えー、そうなんですか・・・」
「もしよかったら、一度あなたの演奏を聞かせていただけるかしら・・・アドバイスが出来るかも・・・」
「えー、ホントですか、とってもうれしいです」
そして、次の金曜日の午後にリエは洋館でピアノを弾いていました。
「あら、あなたいいわよ、とってもいい」
「ありがとうございます、本当に今日はお邪魔してよかったです」
「もしよかったら、私が毎週レッスンしてあげましょうか・・・」
リエは天にものぼるような幸せを感じていました。
それから1年、毎週金曜日にはその洋館から初々しいピアノ演奏が聞かれるようになり、おかげでリエは素晴らしいテクニックを学んで、念願の音楽大学に進むことになったのです。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《上手な人の演奏は心が和まいね》
リビングでイラストに勤しむばあばとの会話です。
「その先生はピアノが本当に上手じゃったんじゃねー、私も好きじゃけん分るけど、やっぱり上手な人の演奏は感動するんよねー」
「ピアノの音が聞こえてくる道って素敵ねー」
「上手な人の演奏は心が和むんよ」
母は音楽大学のピアノ科に進んだ妹のピアノをよく聞いていたので、このショートショートストーリーは感情移入するものがあったようです。
【ばあばの俳句】
六月や今日ある幸をかみしめる
母は毎日健康で過ごせる幸せを身に染みて感じているようです。それも毎朝仏壇に手を合わせて、家族や知り合いの健康を願っているからこその幸せだと確信しています。
私は、母の日々のこうした積み重ねが幸せの原点だと感じています。誰かの幸せを願う気持ちが自分の健康にもつながっていると思うと積み重ねることにも苦を感じませんよね。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
たくさんの記事の中から、「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただきありがとうございます。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗