おばあちゃんの伝言
◇◇ショートショート
本若子さんはビックリするくらいパワフルなおばちゃんです。90歳なのに食欲旺盛で、ステーキだって、200グラムはペロリと平らげます。
レストランで彼女の食べっぷりを見て、隣の人が驚くくらいです。
「もの凄い食欲ですね、私たちもおばあちゃんを、見習わなくっちゃ」
初めて出会った人からも、そんな風に声をかけられる元気印のおばあちゃんは、数か月前にこの街にやって来ました。
駅で倒れているところを保護され、記憶が曖昧だったので一時的に施設に入っていましたが、数日後に記憶が戻りこの街での生活が始まりました。
若子さんは保護された時「私は20歳、二年前に成人したから、私は今は二十歳なの」としきりに言っていました。
まわりの人には「このおばあちゃんはいったい何を言っているんだろう、何が成人だよ、頭おかしいんじゃないの」と思われていました。
ところが記憶が戻ってからは、明るく可愛らしいキャラクターとポジティブな発想が人気を呼び、まわりの人はみんな若子さんに夢中になりました。
地元の学生たちは「若子さんの話は笑いのツボにはまるんだよ、ファッションセンスも抜群だし、90歳なんて信じられない」と言って、若子さんを見つけては話しかけています。
「若子さんがこの街に来た時には、私は20歳って言い張ってたんだって」
「私は間違いなく20歳なのよ、だって2093年から70年さかのぼってこの時代に来たんだから」
「またまた、若子さんが訳がわかんないこと言ってるよ、でも面白いよ」
「私ね、二十歳の時に好きな人に好きって言えなかったの、だからその人に本当の気持ちを伝えようと思って、一生懸命この時代に来たんだから」
学生たちはまたまた若子さんの妄想が始まったと思いながら、話半分に聞いています。
「私ね、時代を遡れたのに、見た目が変わらなかったのよ、90歳のまんまのルックスだから、あの人はきっと気づかないわ」
「若子さん、目的の人には会えたの」
「見つからないんだよねー」
「何を伝えるつもり」
「そりゃ、”私はあなたが好き”に決まってるじゃない」
「若子さん、好きだったんならどうして好きって言わなかったの」
「私は、言葉に出さなかっただけで、態度では示していたんだけどね」
「素直に、言葉に出しておけばよかったね」
「彼はきっと分かってくれてると思ったんだよね、でも伝わって無かったみたい」
「やっぱり言葉が大切なんだね、だけど若子さんそんなに好きだったんならまた伝えることもできたでしょう」
「うん、それがねー、彼は2023年の暮れに亡くなったんだよ、海外に行っちゃって、私が好きって伝えていたらきっと旅には出なかったと思う」
「そうか、それじゃあどうにか伝えないといけないね、手掛かりが分かったら僕たちが彼のこと探してあげるよ」
「私、ここに居られるのは後1週間なんだ、2024年になる前には70年後に帰らないといけないから」
「分かった、僕たちのネットワークで探してあげるよ」
若子さんは学生たちにその人を探してもらう事にしました。
しかし中々手がかりが得られません。
どんどん、タイムリミットが迫っていました。
「若子さん、その人の居場所は分かったんだけど連絡方法が見当たらないんだ、LINEさえわかればいいんだけどね」
「そうか、残念、私がこの時代にいる間にはきっと会えないね、私からの伝言伝えて欲しい、2093年に私は90歳でも元気だから、あなたも海外に行かないで後70年元気で頑張ってって」
「うーん、何だか信じられないけど、見つけたらそう伝えるよ」
「お願いね!」
若子さんは、それからしばらくして姿を消しました。
❀❀❀
2093年のある介護施設です。
人気者の本若子さんは、新しく施設に入る人のウェルカムパーティーの準備をしていました。
そこに、現れたのは杖をついて、髭を生やした優しい表情のおじいちゃんです。彼は嬉しそうな顔をしています。
「若子さん、僕です、分かりますか、あなたの伝言を聞いて僕は海外旅行を取りやめました、だから70年後の今、こうしてあなたに出会えています、随分長い歳月でしたが、あなたにこうして出会えて僕は本当に嬉しいです」
若子さんは20歳の頃の笑顔になって、彼の顔を見つめています。
「私、思い切ってタイムトラベルをして良かった、元気なあなたにまた会えたから」
おばあちゃんからの伝言は、若者たちによってしっかり伝えられ、90歳の若子さんに幸せを運びました。
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