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あの日に帰りたい
◇◇ショートショートストーリー
雅子にとって故郷の愛媛は、苦い思い出の場所です。小学校時代彼女の両親の仲がとても悪く、いつもいつも喧嘩が耐えませんでした。
母親と姑との関係が上手くいっていなったこともあったと思いますが、一番の原因は、父親が浮気をしたことでした。会社の若い社員と恋仲になってしまったのです。
父親はいつも帰りが遅く、休みの日も家にいることが無く、女性とドライブをしている所を母の友人に何度も目撃されていました。
「ご主人、この間、海のレストランでロングヘアーの女性と、楽しそうにランチ食べてたけど、大丈夫なの」
「いいのよー、もう諦めてるから、勝手にやってって感じなのよ」
「あなたの反応を見てると、末期的な状況みたいね」
「雅子は可愛そうだと思うけど、私の心は決まっているのよ」
雅子には幼馴染みの健一がいて、小さい頃から仲良く遊んでいました。親の不仲も健一といると忘れられたのです。健一は雅子にとって大切な友達でした。
雅子の両親は彼女の中学進学を期に離婚することになり、雅子と母は6年生の夏休みに母の実家がある大阪に移り住む事になりました。
引っ越しは8月1日です。雅子はこの日で良かったと思いました。健一の誕生日だったからです。
「健ちゃんにお誕生日のお祝いが言える、良かった、何か記念になるものをあげたいな」と雅子は考えて、手作りすることにしました。
「健ちゃん、絶対に来てよ、渡したいものがあるけんね、私ら暫く会えなくなるけん」
「マーちゃん、ほんとに松山からおらんなるんじゃねー、僕、ほんとうに寂しならい」
「三時過ぎの列車じゃけん、10時に東雲神社の境内に来てよ」
待ち合わせをした東雲神社は幼いころから二人がよく遊んだ場所です。鳥居から続く長い石段をよくじゃんけんしながら登っていました。
「じゃんけんぽん」
「チョコレート」
「じゃけんぽん」
「パイナップル」
二人の楽しい思い出がいっぱい詰まった場所です。
ところがその日、松山のおばあさんが、お別れだからと雅子にいろいろお説教をして、なかなか出掛けられません。
「おばあちゃん、もう分かったよ、私これから行かんと行かんとこがあるんよ」と言うと
「あんたは、お母さんと同じじゃ、思いやりがないんよ、情が薄いんよ」そう言われて時計を見ると、もう列車の時間が迫っていました。
雅子は、仲良しだった健ちゃんにサヨナラさえ言えず大阪に旅立っていきました。
あれから8年、健一は都会の大学に進学しました。
彼は仄かな恋心を抱いた雅子のことが忘れられず、まだ彼女と呼べる人はいませんでした。
夏休みに久し振りに故郷に帰ってきた彼は、思い出の場所に向かっていました。
「オレの誕生日が雅子ちゃんとのお別れの日、因縁の日になっちゃた、毎年思い出すなー」
8年前のあの日を思い出しながら、健一は、神社の石段を登っていました。
「ここで雅子ちゃんと、じゃんけんしてよく登ったなー」と、階段の先をぼんやり見つめていたら、境内のクスノキの横に立っている綺麗な女の子が見えました。
「あれっ、雅子ちゃんみたい、まさか、そんなわけないよな」と、思って急いで石段を上るとその女性が声をかけてきました。
「健ちゃん、ビックリ、ここで会えるなんて」
「雅子ちゃん、どしたん、何で愛媛におるん」
「おばあちゃんが入院したんよ、お見舞いにこんといかんかって、私一人で帰って来たんじゃけど、今日は健ちゃんの誕生日じゃったけん、懐かしい場所に来てみたんよ」
「雅子ちゃん覚えてくれとったん」
「忘れるわけないわい、あの頃に帰りたい思って、来てみたんよ」
「雅子ちゃん、僕もあの頃に帰りたい思たんよ」
「健ちゃん、私、健ちゃんにもし会えたら渡したい思って、あの時のプレゼント持ってきたんよ」
「えー、8年越しじゃ」
雅子は、バッグから一枚のハンカチを取り出しました。サックスブルーのシンプルなハンカチの四角に緑色の刺繍糸で四つ葉のグローバーの刺繍が施してありました。
健一は、小学生の不器用な雅子が刺繍針を刺している姿を思い浮かべて「マーちゃん、ええねー、最高のプレゼントじゃわい、8年間も持っとったん」
二人はそれから何時間も話続けていました。
「これからは、連絡するけんね」
「明日は、空いとんかなー」
「あと一週間は、松山におるけんね」
「また、ここで待ち合わせしょうや」
8年のブランクなど少しも感じないくらい楽しい時間は、二人の心を繋げました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《なんか知らんけど面白かったよ》
カフェタイムに、コーヒーを飲んでいるばあばと。
「8年後に偶然会うこともあらいねー、会えてよかったわい、繋がつとったんじゃねー」
「ショートショートは面白かった」
「面白かったよ、ハンカチを持っとるとは思わんかったわい」
「ショートショートはどうかな」
「まー、それぞれじゃねー」
私のショートショートは、まだまだのようです。
【ばあばの俳句】
親子して行って見たいな夏の海
ものすごく分かりやすい母の願望を詠んだ句です。夏になって父とよく行った夏の青い海を見に行きたい。子供のようなその願いが表れています。
父が海の傍の小学校で教鞭を執っていたので、夏はよく学校近くの海に家族で行きました。その思い出をたどって、母ともこれまで度々出かけていました。私はこの句を見て、行かないといけないなと思っています。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗