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言葉の力◇ショートショート

電車通りに小さな花壇があります。地域の人たちが世話をして道行く人の心を和ませていて、その優しい街作りは近隣からも注目されています。

春夏秋冬その季節の花を咲かせている花壇にはそれぞれ担当者がいて水やりや草引きなどの世話をしています。

8つにわかれている花壇の一つのブロックは雅子さんが、もう一つのブロックは安子さんが任されています。

雅子さんが世話をしているブロックでは数種類の花が見事に咲いています。
「雅子さん、綺麗に咲いたねー、私の花は何でじゃろか枯れてしもたわい。毎日水やりに来て草引きも一緒にやりよるのにねー」安子さんは残念そうです。

落ち込む安子さんを慰めようと雅子さんが「安子さん、苗が悪かったんじゃと思うよ」と言うと安子さんは「ほーかなー、同じ苗じゃったよー、やっぱり私の育て方かなー」と、寂しそうです。

二人はいつも誘い合わせて作業をしていました。水やりには近くの井戸水を汲み上げた蛇口の水を使っています。いつも仲良く話しながら作業をしていました。

「電車に乗っとる人も、ここの花壇の花を楽しみにしとるんじゃと」
「育てがいがあるねー、頑張らんと」
お互い綺麗に花が咲くことを願って端正込めて育ててきたのに、安子さんの落胆が雅子さんには痛いほどわかります。

隣のブロックの洋子さんからある情報が入りました。
「いっつも夕方にね、安子さんのブロックの花壇をうろうろしとる人がおるんよ、毎日花壇に向かってブツブツ言いよらい」
その話を聞いた二人は何日か、こっそりその人の様子を見ていました。

すると毎日のように一人の女性が安子さんの花壇の前で辛い顔をしてブツブツ言っているのです。

こっそり聞いていると日常の愚痴を言っているのが分かりました。
「あんた聞いてくれる、今日なー、うちの旦那が私がお洒落しとったらお前そんな服似合わなんぞー、無駄遣いするな言うたんよー」とか、「昨日の夕飯で煮魚作ったら、姑が塩辛い言うて食べんかったんよ、いっつもは味がない言うのに」またある日は「息子がなー私が何言うても無視するんよ、体調が悪かっても見向きもせんわい、寂しかろ」そう言って、日々のうっぷんを花に向かってぶちまけていたのです。

雅子さんも安子さんもその様子を1週間も見ていたら自分達まで暗い気持ちになりました。

二人はある日その人にこう言いました。「あなたの話、私たちにも聞こえたじゃけど、あなたは何時も頑張っとるんじゃね。その気持ちは本当にようわからい。これからはあなたの話私たちが聞いてあげらい」と。

それから、三人は毎日のように花壇でおしゃべりをするようになり、花壇からは明るい笑い声が聞こえるようになりました。

そして安子さんの花壇の花が枯れることも無くなりました。



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また明日お会いしましょう。💗


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