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自由詩
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2020年5月の記事一覧

翡翠の瞳が開いたよ
ひまわり ひらひら 昼下がり
緋色のひぐらし一目見て
柊ひめごとひとりきり

夕涼み

葉脈を透かす西日
青はますます深く
人々は目を細める
遠くへ行ってしまった声を拾い集めるように

無線拡声器から
大きな大きな鐘が鳴る

虫たちは飛び続ける
呼吸を忘れることなく
光の差す方へ
ただ 光の差す方へ

通り雨

にわかにもたらされたそれらは
雨樋を伝って陸へ

トタン トタン

雲間から覗くパステル
あのおじいさんは
イーゼルを下げて出かけるかしら

ガラス窓の水晶
草花たちがいちばん美しいとき

夏を想う

濃密な睡眠をよそに
向こうの世界は水底に沈み
鍵盤をなでる薄桃色
あどけなさと狂気に見惚れた

刺すような日差しを思い起こす
シャボンのマーブル模様
汗ばんだ首筋をさらう
見上げた窓はがらんどう

ここにいないのは なぜ

言霊

美しくいたいなら 美しい言葉を話すこと
たましいの神話

優しくありたいなら
優しい言葉を話すひとといること
未来永劫

遥か先の生命へ
絶え間なく 叙情詩を詠み合えば
きっと健やかであれると

喧騒

平らな街の静けさ
好むと好まざるとに関わらず
喧騒が戻る
薄目を開けたお月さま
まどろみの湖に今も

もの言わぬ生命
回路は接続され ざわめきを捉える

恋の歌は歌えないのだと
言ったひとがいた
夢の中さえ

見上げた闇と 眠りに落ちる

声帯

ウィスパーボイスの女神
半永久的に失われた旋律
何度も書き直す
弦楽器の声帯

待つことは難しくありません
思い込みであったとしても
満ちる日のひとつ手前で
ただ 丁寧な振動を繰り返す

日常

たとえば
映画を観ているひとと
おなじ部屋で本を読む
隣の部屋で猫と戯れる

たとえば
二度目に目覚めたとき
悪夢のことは忘れている

たとえば
新しい服を着て出かける

日常と非日常の境
振り返らずにはいられなかった
野ばらの呼び声
凛と立つ杜若に変わる

さびしさ

わたしたちは知っている
目に見えないものたちのことを
忘れたふりをしているだけ

朽ちた花びらは土に還る
誰しもが みな

さびしさを食糧として 枝葉を伸ばす
とうにそこにあったものが再生産される

どうぞまた笑って
笑ってみせて

脳内仮想空間の朝
現実と交錯する朝
夢と呼べなくもないかもしれない 朝

ここ何日か 夕暮れを見ていない
まだ覚えているだろうか

ヒントは与えられている
浮遊するモールス信号
悲観によって遮られる

せめてあなたがひとりでなければいい
抱きしめてくれる誰かが そばにいたらいい

雨の日のアルペジオ

降り注いだ水分が蒸発するまでの間
角砂糖が角をなくしていくのを眺めていた

雨の日のアルペジオ
確かな安心を得る

この部屋には何もない
散乱した光の他には

僕らはとてもよく似ている
それでいて ひとつもおなじではない

雨の日のアルペジオ
確かな安心を得る

宇宙

遠い国の言葉で綴られた恋文
宛どころのない
更新される宇宙
微かなノイズ

あたらしい智を得る
幾分視野が広がる
心づもりができる
悩み事は尽きない

都合のいい解釈
甘やかな記憶

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おまけ
先日の新曲 たんぽぽ
歌詞をすこしだけ

魔物

片足立ちでエッセイを読む
曇り空 窓の向こう
レンズの内側の指紋
すべてが見えてしまわぬように

美しい指だった
忘れられないこと
忘れなくてもいいと思えたら

隠れているから 覗きたい
離れているから ただ募る

遠回りをして 帰った

自意識

いつかの5月 夏の気配を連れていた

分散するソーダ水
溶けたキャンディ
過剰な自意識を持て余す

たんぽぽの綿 写真集
眩しさに目を細め
浮遊する足下
シャボンの向こうに映るのは
いつもおなじひと