読書録——『科学文明の起源―近代世界を生んだグローバルな科学の歴史』
趣味が高じて色々な本を読むことがあるが、今回の本は特に印象に残った。ジェイムズ ポスケット (著), 水谷 淳 (翻訳).科学文明の起源―近代世界を生んだグローバルな科学の歴史.東洋経済新報社.2023
職業柄、科学的発見とはどういうことかについては一定の関心を持ち続けており、それを日常の仕事に活用してより良いものにしていくことの重要性はいくら強調しても足りない。
義務教育の頃から、科学的な考え方や知見は欧米で築き上げられてきたと教え込まれ、その色眼鏡をかけていると医学における重要な知見も原則欧米発という感覚を抱いてしまう。そのパラダイムで長く医師をやってきたが、本書には良い意味でそれを打ち砕かれた。
本書は15世紀ヨーロッパのアメリカ大陸との出会いや、アジア(中東、中国やインドを含む)、アフリカとの交流から始まるが、到るところで交流先の知識や知恵から学びとっていく、またそうせざるを得ない数多くの文脈が紹介されている。つまり西洋以外の文明の方が先進的であった事柄は無数にあったということである。
また、15,16世紀にもそれより後の時代も、科学的発見は純粋にそれが追求されたというより、世界における主導権争い(時代によっては帝国主義的膨張と言っても良い)と密接に結びついていた点の指摘も重要であろう。ニュートンやメンデレーエフなど、中学校でも名前を聞くような科学者もその例に漏れていない。
科学的な発見に関しては、現在では英語で発信されることが多いが、発信者は英語を母語とするとは限らないし、母語であってもその内実は国や地域により少しずつ違っている。日本で過ごしていると「英語」というだけで敷居が高くなり、英語の発信者の多様性に意識が向きにくいと感じるが、そこに対する解像度は高く保っておかなければならないだろう。
科学的な基礎は大事にしつつ、自分と異なったものの見方・考え方に対して偏見を持たずに、そこから新たな学びを得ることの重要性を改めて痛感した。