見出し画像

「BLANK PAGE 空っぽを満たす旅」

母・樹木希林と 父・内田裕也を たてつづけに喪った。虚しさ、混乱、放心状態、ブラックホール……。「人生の核心的登場人物を失い空っぽになった私は 人と出会いたい、と切望した」谷川俊太郎 小泉今日子 中野信子 養老孟司 鏡リュウジ 坂本龍一 桐島かれん 石内 都 ヤマザキマリ 是枝裕和 窪島誠一郎 伊藤比呂美 横尾忠則 マツコ・デラックス シャルロット・ゲンズブール独りで歩き出す背中をそっと押す、15人との〈一対一の対話〉

・・・・・・・

仕事帰りにふと立ち寄った書店で購入した本書。
言わずと知れた稀代の大女優、樹木希林。破滅的でヒット曲が皆無にも関わらず芸能界の真ん中辺りに居続けたロックシンガー、内田裕也。
隠れ昭和サブカル好きな僕は、この二人は一人ずつ紐解いていくだけでも広辞苑ぐらい分厚い本が書けると思っているのだが、二人の娘、也哉子女史が上梓した「BLANK PAGE」は一晩かからず読み終えるエッセイ&対談本だった。
まるで小説のような、物語性のある構成。
得てして人生を順に辿って紐解いていけば、自然とそうなるのかも知れない。

半年間のあいだに父と母を亡くした娘。
生まれた時から別居状態で、数える程しか対面しなかったという父。
損得ではなく「オモシロイから」という理由だけでありとあらゆる業種の人と娘を引き合わせた母。
どちらとも自分勝手で、アイデンティティをどこかに置き忘れたまま矛盾だらけの家族に振り回され、やがて20歳になる前に人気俳優と結婚した娘。

喪の仕事の渦中に引き受けた連載を通して、也哉子女史は「両親から解放された自由」と「両親がいない永遠の孤独」をどう処理すればいいのか考え続けている。
後書きにて、彼女なりの答え(の・ようなもの)がこそっと記されているのだが、きっと折に触れ彼女はぐるぐる考え続けるんだろうなと思った。

空っぽ、というのはまさに自由であり、そして空虚であり、ブラックホールであり、安心感であり、重さと軽さが同居している人間の矛盾を一心に浴びる過程なのだ、と軽やかで美しい文体に思い知らされる。

対談相手は自ら選んだと書いてあった。
つまり、詩人やアイドル出身の女優、または元解剖医、脳科学者から占い師まで、多岐にわたる人選は、彼女もまた「オモシロイから」という母譲りの好奇心を惜しみ無く発揮していることが面白かった。

文中、対談中、それぞれの家族の葛藤が垣間見える。

そもそも家族とはなんだ?というところまで話が及ぶ。

そして結局、「人間は当たり前に孤独である」という母・樹木希林の言葉が引用される。

マツコ・デラックス氏の話には涙が溢れそうになり、養老孟司御大の知識や感性に感服し、何より也哉子女史が一人旅に出た際のエッセイはまるでこの世の温もりをすべてかき集めたかのような多幸感があった。

一人になってみて、いなくなった人の存在をより深く感じることがある。
だから、一人は決して孤独ではない。

こうして一人で本を読んでいる間の僕だって、全然寂しくなかった。
たくさんの人間を垣間見て、感じて、そして居ても立っても居られずにまたもや駄文を書き連ねているのだから。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?