「これはお幾ら万円ですか?」というやっかいな問題
視聴者が持参する古美術品や昔の玩具などの「お宝」を専門家や鑑定家と称する人たちが値付けするテレビ番組が安定した人気を集めている(いた?)そうです。
人気の秘密は、高額だと信じていたものに安値がつけられたり、意外なものが高額な評価になることらしいのですが、安値評価で残念がる場合はさておき、高額な値付けに喜ぶ感覚を今一つ理解することができません。
何故ならば、そこに真剣なオークション性はなく、提示価格にそれなりのウンチクはあろうとも、しょせんは「無責任な値付け」にすぎないからです。
誤解なきように補足すると「無責任」というのは、何も考えずに付けたという意味ではありません。「この価格なら私が買い取ります」という評価への履行責任性がないという意味です。
とは言っても、実際の世の中にも「売るつもり、買うつもりはないが正当な価値を知る必要がある」という状況、または「売るつもり、買うつもりもあるが、まずはその価値におおよその見当をつけたい」という状況が発生することも事実です。
そのような状況は、取引相場のない株式と不動産関連でも見受けられます。
たとえば非上場株式や不動産の持ち主に相続が発生した場合には、その相続した財産を売却する意図が相続人になくても、相続税額計算のために価額評価の必要性が出てきます。
また、非上場株式を売買するM&Aなどの場合には、上場株式取引のような透明性と流動性の高い市場価格が存在しませんので、何らかの方法で適正価額を模索したいという需要が出てきますし、不動産取引にても同様です。
非上場株式においても不動産においても、いわば「唯一無二」の対象物の経済的価値を算定するには次の3要素の組み合わせが王道とされています。
① 資産性 ( Cost Approach )
非上場株式であれば、その会社の純資産価額ないしは解散価値、不動産であれば、再調達原価、積算価格と呼ばれるもので、「静」の状態での換金価値です。
② 収益性 ( Income Approach )
非上場株式でも不動産においても、その対象物の将来に向けての稼ぐ力、すなわち収益力への評価です。つまり「動」への期待値を直接還元法やDCF法で求めるもので収益価格と呼ばれます。なお、経営権に影響がない範囲での親族以外の第三者への株式譲渡であれば配当還元価額などを使用します。
③ 市場性 ( Market Approach )
非上場株式の相続財産評価方法でいう類似業種比準方式、不動産鑑定での取引事例比較法で導き出される比準価格が相当します。似たような会社または不動産がいくらで最近売買されたかを確認した上で適当な修正を加えて算出する、いわば「仮想市況価格」です。
以上の3要素を専門家と称する人々が一定の基準により、こねくり回して出てくるのが「適正な価額」ということになっています。
もちろん実際のビジネス現場では、売手と買手がそれぞれの思惑に基づいて「外野は黙ってろ」と、自由に売買価格を合意することが可能です。
しかし税務当局は「外野」ではありませんので黙ってはいません。
贈与税や相続税課税のために、純資産価額を判定の中心に据えた独自の評価をします。
また、簿記会計には「のれん」というユニークな概念が存在します。
これはM&A 等にて実際に買収した価格が、時価評価純資産価額と比較して高額である場合、その上振れ差額を無形固定資産として計上するものです。
実はそのプレミアムはただの過剰評価なのかもしれません。
後日やはり高値掴みであった事が「減損テスト」等を通じて判明すれば、その金額は損失計上されます。
反対に純資産価額よりも安く買えた場合は「逆のれん(負ののれん)」と言い、安く買えた部分を特別利益として一括計上します。
しかしこちらも後日、買収時査定が甘くポンコツを掴まされたと判明すれば、その分を減損処理にて損失計上することになります。(本例を以前実際に近くで見かけて苦笑した経験があります。)
以上のように俯瞰(ふかん)していくと「これはお幾ら万円ですか」の基軸が時価での純資産価額を中心に機能していることが分かります。
追記:
2024年1月以降、本格的な「タワマン節税防止策」が導入される情勢です。
現状の不動産相続税評価額は、建物にかかる固定資産税と路線価を基にした土地価格を足して算定しています。
しかしタワマンでは一戸あたりの土地持分割合が極小化(これを通称「タワマン所有土地面積たたみ一畳」と言います)されて、高価な高層階ほど市場価格と評価額との開きが大きくなりました。
今後ははその差額を「乖離率」と「補正値」を使い市場価格の最低6割になるように修正する意向だという話です。
「資産性」の本質が「収益性」や「市場性」とも不可分な関係にあることの好例です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?