まだ恥ずかしいから夢の途中
先日、午後半休を取り、都内をぶらぶら散歩した。
まず、竹橋まで足を運び、東京都近代美術館で展覧会を鑑賞した。1時間半ほど滞在した後、今にも雨が降りそうな天気だったが、平日の休みという高揚感から、私はそこから九段下まで歩いてみることにした。
元来、散歩というものがあまり上手くない私は(よく、散歩に上手いも下手もあるのかと聞かれるが、間違いなくある)、ただ九段下に向かうとミッションを自らに課したのだが、やはり散歩が上手な人には憧れるので、その途中で、寄り道というものをしてみたくなった。
そこで皇居。東京生まれ東京育ちの私は、観光客がよく行く皇居という場所に足を踏み入れた記憶がないのだが、道すがら「清水門」という門が開放されていたので、中に入ってみることにした。散歩への挑戦である。
門をくぐって少し歩くと、普通の高さの2倍ほどの段差がある長い階段が立ちはだかった。私は半ば義務感にも駆られるようにその階段を昇ってみた。腿に力を入れ、よっこらせと何度か呟いてから頂上にたどり着くと、その広場には簡素なベンチがいくつかあり、そこに高校生と思しき男子2人が座っていた。
私は「あ、この子たちは散歩が上手い側の人間で、今日は学校帰りに皇居に来たんだな」と思った。散歩が上手い人というのは思春期くらいから上手いのである。
階段を昇ってしまった私は、もうどうしていいのか分からず、付近に地図があること発見して、半ば頼るようにそれを眺めに行った。地図を見ていると、その裏側の方向から、女子高校生らしき3人組が歩いてきた。そして先ほどの男子高校生2人に近づいて行き、男子たちはつまらなさそうに彼女たちを迎えた。
ここで分かった。この子たちは散歩をしに来たのではなく、修学旅行生で、東京に遊びに来ているのだと。勝手に散歩が上手いとか決めつけていたけど、別にそういうことではなかったらしい。
自分の中のナゾの思い込みに気づきつつ、もう散歩もどうでも良くなってきてしまい、地図上で「吉田茂像」という文字を発見した私は、あ、これを見たらもう行こうと思った。
そこから少し歩いた所に、杖をついた吉田茂の銅像があり、私はその前で数十秒ほど突っ立った後、来た道を引き返した。
先ほどの高校生たちがいた広場に戻ると、さっきの男子高校生のうちの1人だけがいて、何と激しいヒップホップダンスを踊っていた。(ストリートダンスというのかもしれない。その違いは分からない。)
その姿がかっこ良すぎて驚いたのだが、ここは東京、そんな人はいくらでもいるので、立ち止まらずに素通りしようとしたら、彼は私を見るなり動きを止めてしまった。そんなっ、続けなよ、と言いそうになったが、そのままベンチに戻ってしまった。
この時私はこう思った。見られるのが恥ずかしいから止めてしまったんだろうけど、その恥ずかしさも全部受け入れて、周りの目を気にしなくなった時が夢に近づいている時、叶う時なんじゃないかと。彼はまだ恥ずかしがっている。でもそれはとても自然なこと。だって若いから、その中でも格段に若いから。そりゃ恥ずかしいって思うよね。でもその恥ずかしさがなくなって、誰が来ても何人通っても自分のやりたい踊りをし続けてちゃってたら、それは夢に近づいてる証拠だよ!だから、がんばれー!
と、私は例の普通の2倍ほどの段差の階段をどすんどすんと降りながら、最初は勝手に散歩が上手いと決めつけ、その後、彼の夢はダンサーであるとまたしても決めつけている自分に気づくのだった。