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【掌編小説】いつか、どこかで、また。

広く何もない道を歩いていると、見覚えのある後ろ姿がみえた。
「この道はどこに繋がっているのでしょう?」
と、聞いてみた。
その人は振り向くこともせずに「さぁ?」とだけ言った。
(なんだよ、話しかけてるのに、振り向きもしないなんて、失礼な奴だな) 僕はそう思った。 声が若かったので、礼節を知らないなんて、親の教育がなってないなーーなどと思いながら、来た道を戻った。
しばらく歩いているとまた、人が立っていた。
「すみません、この一本道のほかに道は無いのでしょうか」と、その人に聞いた。その人は振り向いて、
「あるとも言えるし、無いとも言えますよ」
何をワケの分からない事を言ってるんだ。と、思ったが、それよりも先にその人が自分とよく似ていることに驚いた。
ただ、その人は年齢的に少し上に見えて、自分と言うより、父親にそっくりだった。
「何を驚いているんです? 私は50歳のアナタですよ」
「え?」 (何行ってるんだコイツは……)
その人は静かに微笑み、
「今、何を言ってるんだと思ったでしょう?」
心を読まれて驚いた。 いや、単に偶然かもしれない。だいたい友人たちにもよく、感情が顔に出ると言われるではないか。
「そう。僕は思ったことがすぐに顔に出るんです。 それで何度失敗したことか。特にね、社会に出たら気を付けた方がいい」
 僕は何も言えず、突っ立ってる事しかできないでいた。
自称50の僕は構わず続ける。
「若いというのは、いい。 未来を思い描ける。そこにせっかく道があるのに、この道を行ったり来たりするだけなのはつまらなくないかい?」
「道? 道なんて、この一本道しか見当たらない」
「あるさ。 そこ、ここに。 君が歩けば道が見えてくる」
僕はその場で、ぐるりを見回した。 見る限りでは、道らしい道はここ一本だけしかない。 が、道を一歩外れてみた。
驚くことに、ゲームのように、そこに『道』が出来た。
  彼はにっこり笑って「な?」と言った。
「本来、道は自分で作るものなんですよ。 だけど、この頃じゃあ作られた道を行く者しかいない。 《ラクだから》? 《親が望むから》?《知らない道は怖いから》? 君はどの言い訳を使う?」
   その人は、両手を広げて、僕に問いかけた。
「ここまで育ててもらったんだ。恩返しをしなくちゃ」
彼は目を見開き、くっくと喉で笑うと、
「なるほど! 確かに君の親は恩返しを望んでる。大学に入る頃には実際に君に言い聞かせてもいた。 しかし、君はそれでいいのかな。 父親の人生じゃない、他でもない自分の人生なのに?」
「落胆させたくない」
「君はーーいや、今の子達は優しいね。育ててもらった親の望むままに生きて、そして親が亡くなった後はどうする?  もう指南してくれる人はいない。 そしてもし、思ってた人生じゃなかった時はどうする?  後戻りはできないぞ」
「諦めるよ。 それも自分で選んだ道だ」
彼は大袈裟にのけ反った。
「ハッ! なんて愚かな!」 と、新製品のプレゼンでもするかのように、彼は人差し指を立てて言う。
「自分で選んだ?  それは本当に選んだのかい? 選ばされたのではなく?」彼はぐいぐいと畳み掛けてくる。
「世間はそのように出来ている。少しでもレールからはみ出た奴にはお仕置きとね。 個性、個性と言いながら、実は個性を認めない社会だ。 姿形に、ファッション、生き方、果ては病にかかることすら誰かの承認が必要さ。 誰に? ーー世間様だ。 君も両親も、実態のない『世間様』に振り回されているのに気がついていないんだよ」

ーー確かにそうかもしれない。
いい学校に入れば優秀だと世間に認められ、いい会社に入ればエリートと言われる。 例えばそういう人が犯罪を犯せば、あんな優秀な人がどうしてと世の中は不思議がる。 優秀な人間が犯罪を犯さないとは言えないのに。

「そうだろう? 世間様は表面しか見てないし、そもそもいい加減だ。 そんなものに振り回されて生きるのは窮屈じゃないかね」

その人ーー50歳の僕は、よく見ると少し疲れたような顔をしていた。年の割には白髪も多い。もしかしたら人生を後悔しているのかもしれない。

僕は聞いてみた。
「50の僕は、友達はいる? 親友とまで言わなくても、少し深い話の出来る友達」
  彼は意外な質問に、少しだけ顎を引いた。 そして数秒考えて、
「いるとも。大事な友人だ」胸を張って、堂々と言い切った。

僕は安心した。
「それなら、どの道を行っても大丈夫だね」
彼はちょっと驚いて、すぐにニヤリとして言う。
「それが分かってるなら大丈夫だな。 僕も安心したよ」
「それじゃ行くよ」今の僕が言った。
「ああ、それじゃ元気で。 いつか、どこかで、また会おう」

僕は、さっき出来たばかりの道に、一歩足を踏み出した。


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