サプリメントのお話〜風邪(コロナも検証)に亜鉛は効果あるのか?
こんにちは! やま茶です。
今回は、風邪と亜鉛、コロナウイルス感染症と亜鉛について書いていきます。
風邪に効く薬ってあるのでしょうか?
風邪ひいたら、抗生剤や咳止め、解熱剤が処方されると思いますが、抗生剤はウイルスには効果ないし、咳止めや解熱剤は辛い症状を緩和するための薬ですね。
基本的には風邪は自分の免疫で治っているわけです。
亜鉛と免疫の関係
亜鉛は、重要な免疫を担うT細胞の選択・成熟、NK細胞の作用に関わる胸腺ホルモンの構成要素の1つであり、IFN-γ、IL-2、さらにマクロファージを刺激すると共にIL-12を生産し、病原体への感受性を制御する役割があります1)。
逆に亜鉛欠乏は、T細胞とマクロファージの機能に影響を与えるIL-10(抗炎症サイトカイン)の生産を制御できなくしてしまいます。
さらに、亜鉛イオンはコロナウイルス(インフルエンザウイルスも含む)のRNAポリメラーゼ活性を阻害し、細胞内で亜鉛イオノフォアを作り、ウイルスの複製を阻害することがわかっています(in vitro, 試験管内での研究にて)2)。
では、実際の臨床では亜鉛はどのくらいの効果があるのでしょうか?
子供の急性下気道感染(ALRI)に対する亜鉛の効果
単一RCT試験で、亜鉛の効果量を知るにはこの論文がわかりやすいので紹介します。
A randomized controlled trial of zinc supplementation in the treatment of acute respiratory tract infection in Thai children.
タイの子供を対象とした急性呼吸器感染症の治療としての亜鉛補充の臨床試験です3)。
試験デザインは、無作為化二重盲検、プラセボ対象で、被験者数も60人という小規模なのですが、きちんと効果が出ているんですよね。
要約
子供における急性下気道感染;ALRIでは、プラセボ群よりも亜鉛を服用していた群で治りが早い。また、入院期間も亜鉛服用群で短い。 亜鉛は忍容性に優れ、副作用報告もなかった。
事前情報
⚫︎亜鉛は呼吸器感染を防ぐ効果がこれまで示されてきたが、入院中の子供達に治療薬として亜鉛の効果を検証した研究がない
行ったこと
⚫︎2017年6月〜2018年1月においてタイで、ALRIを診断され入院した子どもたち64人(2か月〜60か月の月齢)を対象に無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った
⚫︎亜鉛(bis-glycinate)を服用する群は、30mg/日(15mgを1日2回)を退院までまたは最大7日間服用した
⚫︎主要アウトカムはALRIから回復までの時間、二次アウトカムは入院期間の長さとした
わかったこと
⚫︎ALRIからの回復までの時間は、亜鉛群で中央値3日(2~4日)、 プラセボ群で4日(3~5日)と亜鉛服用群で有意に回復が早かった(約1日)
⚫︎入院期間は亜鉛群で平均3.8日、プラセボ群で6.1日と亜鉛服用群で有意に短かった(約2.3日)
その他の参考情報(亜鉛の形状について)
興味深いことに、服用する亜鉛の形状によって体内吸収量や副作用の出現率が異なることまでこちらの論文で言及されています。
この試験で採用された亜鉛ビスグリシネートは吸収も良く、亜鉛服用でよく見られる吐き気・嘔吐・上腹部痛・下痢などの副作用も少ないということです。
亜鉛無機物(亜鉛スルフェイト)は、吸収率も低く、消化器関連の副作用発生率も高いということでした。
薬剤師コメント1
亜鉛の服用で急性下気道炎の治りが1日早いというデータが出ました。試験規模が64人と小規模で、入院基準に該当するような呼吸器感染症に対して1日の短縮と効果を示せたのは、良いデータだと思います。 つまり、服用することで多くの人が効果を実感できるのではないかと考えられます。
1日30mgの亜鉛服用量は2か月〜5歳までの子供に服用させているので、大人として何mg服用すれば良いのかはここでは明らかではありません。
亜鉛の効果を得るためには、その形状にも注意が必要そうですね。亜鉛でウイルス感染症の死亡率減少効果に決着が付きにくいのはこういった側面もあるかもしれません。
では、複数の臨床試験の結果を検証したメタ分析も見てみましょう。
風邪に対する亜鉛の効果
Zinc for the common cold.
風邪に対する亜鉛4)。1966年〜2010年までに行われた無作為化二重盲検プラセボ対照試験のメタ分析(複数の試験結果を統合したもの)です。
要約
亜鉛摂取は風邪の罹患期間を短縮し、症状も重くなりにくい。
予防に関しては風邪になりにくく、学校欠席や抗生剤処方も亜鉛摂取群で有意に少ない。しかし、味の悪さや吐き気は亜鉛群で多かった。
事前情報
⚫︎風邪に対する亜鉛の役割の研究は1984年から行われてきたが結果が出ていない。不十分な盲検や様々な亜鉛の形状から吸収率が落ちたことで結果に影響しているかもしれない。
行ったこと
⚫︎1966年〜2010年の間の無作為化二重盲検プラセボ対象試験をメタ分析(2人の研究者で選択)
⚫︎治療に関しては少なくとも5日、予防に関しては少なくとも5か月服用した研究を抽出
わかったこと
⚫︎亜鉛摂取で風邪罹患期間が-0.97日(95%Cl -1.56 to -0.38 )減少
⚫︎風邪症状も重くなりにくい 0.39倍(95%Cl -0.77 to -0.02)
⚫︎少なくとも5か月摂取することで風邪ひきにくい 0.64倍(95%Cl 0.47 to 0.88)
⚫︎副作用として吐き気あり 2.15倍(95%Cl 1.44 to 3.23)
薬剤師コメント2
全文読めなかったので詳細不明なのですが、風邪症状から24時間以内の亜鉛投与が重要のようです。メタ分析ですが、要旨の中に異質性についての言及なしです※。
しかし、風邪罹患期間の短縮効果は確実にありそう(単一の無作為化二重盲検試験の結果を優先+メタ分析で補強)。風邪予防や死亡率の低下に対する効果に関しては結果がまだ決着ついていません(死亡率減少のメタ分析もあるがバイアスが強いと思ったので今回は紹介しません)。
亜鉛の形状によってはやはり消化器症状注意です。
※異質性が低い方が再現性は高くなるのですが、他のメタ分析の論文では異質性95%で風邪罹患期間短縮-2.63日(95%Cl -3.69 to -1.58)という研究報告も5)。
亜鉛の吸収率や服用方法の違い(症状発症後すぐ服用できたかどうか)などで結果にバラツキが多いと考えられます。
では、今回のCOVID-19に対する亜鉛の効果はどうでしょう?
新型コロナウイルス感染症に対する亜鉛の効果
コロナウイルスに対する単一RCT試験がありました。
Twice-Daily Oral Zinc in the Treatment of Patients With Coronavirus Disease 2019: A Randomized Double-Blind Controlled Trial.
COVID-19患者への治療に亜鉛を1日2回投与した無作為化二重盲検試験6)です。
要約
亜鉛投与群でICU入室率は有意に低く、30日時点の死亡率は差がなかったが、ICU入室率・死亡率合わせると有意に亜鉛投与群で低かった。外来患者では罹患期間の短縮も見られた。
事前情報
COVID-19への亜鉛の効果に関するエビデンスが不足している(観察研究だったり小規模で被験者数が少ない)
行ったこと
⚫︎COVID-19の診断を受けた18歳以上の患者1200人(診断前の1週間前から症状のあるものは除外、他にも除外基準あり)を対象に、2022/2/15〜2022/5/4の期間でチュニジアで行われた研究
⚫︎亜鉛投与群には、25mgを1日2回、15日間投与された
⚫︎主要アウトカムとして、死亡率、ICU入室率と無作為化の30日後の死亡・ICU入室率の複合アウトカムも検証された
⚫︎二次アウトカムは入院期間、外来患者では、COVID -19の有症期間、入院や酸素の必要性について検証された
わかったこと
⚫︎ 30日時点の死亡率は有意差なし
⚫︎ ICU入室率は0.43倍(95%Cl 0.21 to 0.87)、死亡率とICU入室率を統合したものは0.58倍(95%Cl 0.33 to 0.99)と亜鉛投与群で少ない
⚫︎ 入院期間も亜鉛投与群で3.5日(95% Cl 2.76 to 4.23)短い
⚫︎外来患者のCOVID-19有症期間は約1.9日(95%Cl 0.62 to 2.6 )と亜鉛投与群で短縮
薬剤師コメント3
オミクロン株が流行していた時期だと思われます。肺炎発症率は低い株ですが、ICU入室率は0.43倍。絶対リスクで6.1%の減少。なかなか良い効果が得られていると思います。外来患者の罹患期間の1.9日治りが早いというデータは、これまで紹介してきた論文のデータと一貫性があり、症状短縮期間としては、数日(半日〜3.5日)と見ておいて良いでしょう。
死亡率に関しては減らせるかも、という可能性にとどまる感じでしょうか。ICU入室後の死亡率の評価に関しては亜鉛単独での治療というよりは、ステロイドや酸素投与、抗生剤治療が併用されています。すぐICU入室が必要な重症患者や基礎疾患ありの患者は除外されたようなので、持病があるからと亜鉛を飲んでも今回得られたような効果はない可能性があります。あるとしても早めに服用開始することも大事ですね。
今回は亜鉛の形状に関しては記載なしでした。前半で解説したように、吸収率に関しては有機亜鉛が良いと思われます。
まとめ
基本的には自分の免疫で風邪は治っていきますが、数日程度早く治したい場合や、症状が重くならないようにしたい場合、亜鉛服用が有効だと思われます。
成人であれば、25mgを1日2回、風邪症状が出たら出来るだけ早めに服用してください。
サプリメントは吸収率と副作用軽減を考えて、可能であれば有機亜鉛(亜鉛酵母も良さそう)を選ぶと良いでしょう。万が一、吐き気や腹痛、下痢などの副作用出現時は減量または服用中止で回復すると思われます。
亜鉛を服用していても重症化してしまった場合は適切な治療を受けるため受診しましょう。亜鉛は抗生剤の吸収にも影響するので薬剤師さんに確認してくださいね。
もちろん風邪引いた時は、身体を温めて無理をせずたくさん寝て休むことが基本です。
参考文献
1) Tabatabaeizadeh SA, et al. Zinc supplementation and COVID-19 mortality: a meta-analysis. Eur J Med Res.2022 May 23;27(1):70. PMID: 35599332.
2) Aartjan J. W. te Velthuis, et al. Zn2+ Inhibits Coronavirus and Arterivirus RNA Polymerase Activity In Vitro and Zinc Ionophores Block the Replication of These Viruses in Cell Culture. PLoS Pathog. 2010 Nov; 6(11): e1001176. PMID: 21079686.
3) Rerksuppaphol S, et al. A randomized controlled trial of zinc supplementation in the treatment of acute respiratory tract infection in Thai children. Pediatr Rep.2019 May 23;11(2):7954.PMID: 31214301.
4) Singh M, et al. Zinc for the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Feb 16:(2):CD001364. PMID: 21328251.
5) Science M, et al. Zinc for the treatment of the common cold: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. CMAJ. 2012 Jul 10;184(10):E551-61. PMID: 22566526.
6) Ben Abdallah S,et al. Twice-Daily Oral Zinc in the Treatment of Patients With Coronavirus Disease 2019: A Randomized Double-Blind Controlled Trial. Clin Infect Dis. 2023 Jan 13;76(2):185-191. PMID: 36367144.
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