お薬のお話〜ラメルテオン(ロゼレム®︎)服用で翌日の夕方まで気絶するほど持ち越すのは起こりうるのか?
こんばんわ!
今回はラメルテオンについて書いていきますね。
臨床では昼夜逆転などの不眠に対して使用されますが、結構傾眠や集中力?注意力?の低下などの副作用が思ったほど多いのですよね。
中には、気絶するように翌日の夕方まで起き上がれなかったという声も聞いたことあるくらいです。
どういうこと?ですよ、ほんと。
というわけで、気絶するほどの持ち越しが起こりうるのか調査しました。
ラメルテオンの作用機序
まずは、ラメルテオンの作用機序から。
体内に存在するメラトニンに構造を似せた化学物質で、メラトニン受容体1、2にそれぞれ作用することで自然に近い眠りを促します。
一見すると、無害そうに思えるのですが、メラトニン受容体は全身に存在しているそうです。また、以下説明しますが、メラトニンとの半減期の違いも傾眠などの副作用を起こす元になっているのでしょう。
※半減期:薬の体内の量が半分になる時間。半減期が長ければ長いほど体内に留まる時間も長くなる。
従来の眠剤 ( GABA受容体に作用する薬 )では、翌日の倦怠感や認知機能低下、服用を止めた際に起こる反跳性不眠などがあり、潜在的に薬物依存や濫用もリスクとしてありました。
これらの問題は、Z-Drugと呼ばれる眠剤(ゾルピデムやゾピクロン、エスゾピクロン)が開発され、少しずつリスクを回避できるようにはなりましたが、体内リズムの乱れが原因の不眠に対しては直接的な解決策とはなりませんでした。
メラトニンは睡眠の概日リズムに直接関わるので注目されましたが、30分以下という短すぎる半減期ゆえに、そこを改良してラメルテオンが開発されました。
ラメルテオンの薬物動態
ラメルテオンは服用後30分〜1時間半でピークに達し、その半減期は1〜2時間となるが、その代謝物(以下、ラメルテオン-M-Ⅱとする、上図の下の構造)は、ゆっくり排出され、半減期は5時間とされる。
ラメルテオンの服用後のほとんどの作用はこの代謝物ラメルテオン-M-Ⅱによるものと考えられる(副作用もそう)1)。
ラメルテオンはメラトニンよりもメラトニン受容体への親和性は高く、入眠を早める他に、メラトニンのように睡眠に向けて体温を調節することも知られている。
睡眠維持に効果があるかどうかはわかっていない。
ラメルテオンは、肝臓の酵素CYP1A2で主に代謝され、特定の薬物との相互作用のあるお薬だがここでは省略する。
喫煙は肝酵素CYP1A2を誘導するのでラメルテオンの代謝を促し、代謝物のラメルテオン-M-Ⅱの生成を増やすのではないか?
代謝過程の詳細は不明だが、喫煙者でsSL(自覚的睡眠潜時;就寝時刻から寝付くまでの時間)を早めた(効きが良かった)というデータもあるほどだ2). 喫煙者では要注意か?
ラメルテオンの副作用報告
アメリカでの試験(プラセボ対象無作為化盲検クロスオーバー試験)ではラメルテオン4〜32mg服用群での副作用発生率は8.4〜10.7%でプラセボ群の8.7%と同程度で、LPS(PSGにより測定された睡眠潜時)やTST(全睡眠時間)を顕著に改善した3)。ここで多く報告されたのは、頭痛、傾眠、めまい、喉の痛みであった。
私がこの前対応した患者さんは気絶するように起き上がれなかったと言っていたのだが、、ということでさらに調べると、
あった!!!
海外での報告、1872例中、2例で失神!これに近いのではないか?
発現率は0.1%!!多いような少ないような、、
どちらにせよ、服用開始時は要注意でございますな。
一応、ラメルテオンは添付文書でも自動車の運転はさせないこととなっているのですよね。プラセボ群と比べて運転パフォーマンスは悪かったそうで4)。
論文を見ているとほぼほぼプラセボ群と副作用は変わりないという報告が多いのですが、出版されなかった論文のデータも含めたメタアナリシスではプラセボ群より傾眠の訴えは多いという報告もある5)ので、実際の臨床で見ている感じではこっちの方がしっくりくるなという印象です。
薬剤師コメント
ラメルテオンの場合は、薬物動態的なところが副作用に関係してそうですね。
睡眠維持効果がそこまでないのであれば、メラトニンじゃだめなのか?と思ってしまいますが(そもそも朝にきちんと太陽光を浴びて夜はスマホなど明るい光は遠ざけることが基本ですよね)。
従来の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬)と比べて依存や濫用の心配はほぼない薬6)なので、最初の服用開始時だけ注意して、持ち越しや注意力低下が顕著であればオレキシン系の薬に変更してもらうなどの対処で十分で、割と安心して服用できるお薬なのかなと思います。
参考文献
2)独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ロゼレム錠8mg 審査報告書(2010年4月16日).
※本記事は、法律上の著作物であり、著作権法によって保護されています。
本著作物を無断で使用すること(複写、複製、販売など)は法律上禁じられていますが、無料で拡散することは大丈夫です。
他記事の紹介
2019.10.12 幸せについて〜科学的な観点から
2019.10.14 お薬のお話〜ベルソムラ®︎(スボレキサント)の高齢者への20mg/日投与の意義とは?〜
2019.10.22 精神疾患を持つ患者さんに運動療法を処方したい理由
2019.11.10 お薬のお話〜ザバクサ ®️の臨床的位置付け〜抗菌薬適正使用の観点から
2019.11.30 心の知能指数を鍛えよう〜ストレスケアとしての”許し”のステップ
2021.1.4 お薬のお話〜亜鉛補充で気をつけるべき点とは?
2023.6.16 お薬のお話〜風邪に抗生剤は効かない
2023.9.10 お薬のお話〜イベルメクチンは新型コロナウイルスに効くのか?
2024.2.16 お薬のお話〜デエビゴ®︎錠2.5mgの0.5Tの処方を見たことがありますか?
2024.2.22 お薬のお話〜血管収縮薬との付き合い方(アレルギー性鼻炎・鼻づまり)
2024.2.23 お薬の話〜コロワク推進派の提示する論文につっこむ
2024.5.16 論文紹介〜コロナパンデミック禍のワクチン接種でがん死亡は増えたのか?
2024.5.19 お薬のお話〜下咽頭がんと診断されたら?抗がん剤はどこまで効果があるのか?ハイパーサーミア(温熱療法)の可能性について
2024.5.19 栄養のお話〜下咽頭がんと診断されたら?玄米を食べよう♪
2024.7.1 お薬のお話〜コロナワクチンはどれくらい効果あるのか?
2024.7.4 お薬のお話〜コロナワクチン接種後に精神病を新規発症
2024.7.5 お薬のお話〜コロナワクチン接種と免疫介在性併存症の発症との関連について