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チューンコアの新サービスは「日本型著作権エージェント」の到来。
すっかり一般的になったデジタル配信のためのディストリビューションサービスですが、ここから受け取れる収益は、原盤権分のみで、楽曲の著作権は徴収されていないことを認識していないインディーアーティストが多く、課題となっていました。
DIYアーティストの著作権は「浮いて」いた
ディストリビューターからの分配は、デジタル配信の原盤権保有者に対するものです。それに対して楽曲の著作権は、デジタル配信サービスだけではなく、コンサートやカラオケや他のアーティストがカバーした音源などからも生じます。アーティストが自己管理で著作権を徴収するのは現実的は有りませんから、音楽出版社に委託することになります。
ここが死角になっていたのは、既存の音楽出版社から見ると、チューンコアなどで配信するインディーズアーティストから生じる著作権は多くの場合、少額で事務手数料としても見合わないことになります。積極的に管理したいというモチベーションになりません。アーティスト側の立場だと、通常50%という音楽出版社の取り分は高く感じられますし、そもそも接点がないので、どこの会社にどんな風に話せばよいかわからいでしょう。
TuneCore Japan社長の野田さんは以前からこの問題は意識していて、何度も意見交換してきました。今回、ついに事業として始めることに踏み切ったわけで、おおいに歓迎したいと思います。
また、その意味を僕なりに解説します。
海外では主流のアドミン型著作権エージェント
デジタルサービスが音楽消費の中心になったことで、音楽ビジネス生態系が構造的に変化していることは、僕が書籍やnoteで指摘をし続けていることですが、音楽出版権についても大きな変化が起きています。
それが、アドミニストレーション型とかエージェント型と呼ばれる新しい業態の音楽出版社の台頭です。
コバルトミュージックに代表される、音楽出版権の譲渡や委託を受けずに、著作権の徴収代行のみを行う会社がシェアを伸ばしているのです。その際の手数料は、20%〜25%が多いようです。同じくアドミン型のダウンタウンミュージックは、SOUNGTRUSTというサービスを提供して、手続きを自動化することで10%という低率を実現しています。
音楽出版社の機能を「デジタルサービスからの徴収」に特化させることで取り分を下げています。出版権を音楽家から譲渡ないし委託されて、その楽曲が使用される機会を増やす(楽曲の開発業務)は無くなりますが、デジタルサービスでの使用分が低率で分配されれば、その方が得と考えるアーティストが少なくないのは今の時代では理解できます。
音楽出版社の変化について、詳しくはこちらをご覧ください。
JASRACの信託制度の壁
日本は、放送局からの著作権徴収や、カラオケや有線放送など多様な著作権徴収が実現している、世界でもトップクラスの国です。頑張って英語のガイドラインを読んで、前述のSONGTRUSTを使っても、デジタルサービス以外の徴収は心もとないです。どこからヒットが生まれるかわからない時代ですから、著作権の徴収については広く網を張りたいというのが音楽家側の気持ちでしょう。
そこで登場したのが今回のTuneCore Japanの著作権管理サービスです。TCJが音楽出版社としてJASRAC会員になることで、デジタルサービスだけではなく、カラオケなどの使用の著作権料も徴収が可能になります。
聡明な方は、それは「アドミニストレーション型なの?」という疑問をもつかもしれません。日本はJASRACの著作権管理が「信託」を前提としていて、権利者にならないと分配を受けることができません。このリリースには記述がなく、契約書を見てみないとわかりませんが、おそらく、著作権の譲渡や委託をアーティストから受けて、著作権を徴収するという立て付けになっているはずです。厳密に言うとアドミン型ではないのですが、日本でしっかり著作権徴収をするためには他に選択肢がありません。野田くんも思想的には、権利はアーティスト(作詞作曲家)側に残したままやりたかったでしょうが、現実的な選択を選んだのだと思われます。
実務に言うと、音楽出版権を譲渡しても弊害が出るケースはほとんど無く、業界慣習的な仕組みの中で、楽曲の著作権が徴収され、分配されるということですから、気持ち悪さは残るにしても、ビジネスとして問題はないだろうなと僕も思います。
絶妙だと思ったのは15%という料率です。USのTuneCore本社に合わせたというのもあるようですが、前述のアドミン型は20%、SONGTRUSTが10%ということからいうと、音楽家側に寄り添った上での、非常に適切な料率設定だと思いました。
すべてシステム的に対応して、自動化が進んでいるのできることなのでしょう。最初は赤字でも、回収できるとうのは、ディストリビューターの経験値から自信があるのでしょうね。
曲数でいうと、TuneCoreJapanで配信する楽曲がすべて著作権登録されるとJASRACの年間新規登録楽曲数は数倍になるという計算になるそうです。もちろん全曲を扱うわけではないんでしょうが、かなり曲数になる可能性はあり、まさに適切なデジタルソリューションによる自動化が必要になりますね。
著作権ビジネスと一言で言っても、その音楽家の置かれている状況(ステータスやフェーズ)、目指す目標によって、必要な管理方法は様々なやり方があります。これからは選択肢を増やしていくことが重要というのが僕の基本的な考え方です。
新しい仕組みは、前に進めながら考えよう
実は、DIYアーティストの出版権については、 MPA(音楽出版社協会)の会長でもあるユーズミュージック社長の稲葉さんが、分配されてないことに課題感を持って、自社でも取り組まれていました。この経験値も今後に生きてくると思います。
TuneCoreのようなITスタートアップと音楽業界団体は共通言語も少なく、非常に距離があるのですが、僕は折に触れて、可能な限り、橋渡し、出会いのきっかけを作ってきました。エンターテックエバンジェリストの活動範疇だと思っています。。今回の取り組みでも、TuneCore野田くんと、MPA会長でJASRACの理事でもある稲葉さんと、改めて食事をして意見交換をする場を作りました。かなり踏み込んだ議論、提案が行われていて頼もしいです。ITスタートアップのデジタルリテラシー、音楽業界に積み上げてられてきた知見が融合できる日本の音楽界には大きなプラスになりますね。
すべての課題をすぐには解決できませんが、やれることから具体的に始めながら、前に進んでいくのが大切です。TuneCoreJapanの著作権管理サービス開始は、デジタル時代に合致したエージェント型の音楽出版ビジネスの「日本型」の事例として意義があります。
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