第五章:個へのパワーシフト-2-変貌する音楽出版社の役割(期間限定公開)〜『音楽業界のカラクリ』サポートページ
国単位での楽曲開発は減少していく
楽曲の権利にまつわる取引も個へのパワーシフトが 起きています。楽曲の著作権の徴収分配を受け持つ役割を音楽出版社と呼び、その権利を音楽出版権といいます。作詞作曲家は、楽曲から生じる収益の50%を 音楽出版社に譲渡して、その楽曲の開発にまつわる業務と、徴収分配を委託するというのがこれまでの仕組みでした。音楽出版社は著作権管理団体(日本ではJASRAC)に徴収を信託するという形です。
収益源がデジタルサービスになったことと、テクノロジーの変化が音楽出版社の役割も変え始めています。以前は、音楽出版権も国単位での管理が基本でした。作家と契約した音楽出版社をオリジナルパブリッシャーと呼びますが、自国以外でその楽曲を活用したい際は、その国の音楽出版社とサブパブリッシャー契約を結んで、プロモーションなどを依頼します。例えば、その国のアーティストにカバーしてCDリリースしてもらうなどの手法で、その楽曲からの収益を拡大していきます。
この国単位の楽曲開発という構造が変わっています。
Spotify、Apple Music、YouTube といったクラウド型のサービスはグローバル展開が普通です。国ごと別々に契約することはむしろ煩雑で、オリジナルパブリッシャーが各事業者とまとめて契約するのが合理的です。音楽出版社が国ごとに管理するという仕組み は廃れていくことになるでしょう。
グローバルでは、従来型の音楽出版社とは異なったビジネスモデルの音楽出版社がシェアを急増させてい ます。アドミニストレーション型やエージェント型と呼ばれますが、音楽から音楽出版権の譲渡を受けずに、 収益からの定率の分配だけで、徴収、分配、楽曲開発 などを行うエージェント的なビジネスモデルです。このタイプの代表格は、コバルトミュージックです。大物 アーティストの大ヒット曲を預かり、好条件を引き出す交渉を行っているといわれています。同タイプで日本法人も設立しているダウンタウンミュージックは、 SONG TRUST というデジタルサービスを提供していて、デジタルツール的に定率で作曲家自身が楽曲管 理できる仕組みとなっています。
また、テレビまで含んだメディアでの楽曲使用状況 を調査するサービスも存在します。サウンドマウス社 では、世界中の約4000万曲のオーディオフィン ガープリントのデータを持ち、放送局での使用状況をレポートする事業を行っています。日本の楽曲についてはNTTデータも同様のサービスを提供していま す。オーディオフィンガープリントとは、人の指紋のように個別で判別可能な状態で、音像を記憶し、放送番組から自動で調査する仕組みです
業界慣習の見直しが求められる
このように権利譲渡を受けるのではなく、テクノロ ジーを駆使して、音楽家にサービスとして提供して収益分配を受けるモデルがいまの音楽出版権管理ビジネスのトレンドになっています。
この音楽出版権の領域においても、日本独自の業界慣習のアップデートが必要になっています。前述のエージェント型の音楽出版社モデルは、JASRACの信託制度との相性が悪いという問題があります。JASRAC は、アナログ時代に集中管理の効率性を目指してつくられた仕組みを持っていますので、会員となった作曲 家の全楽曲の信託を受けるというモデルでできあがっ ています。
また、出版権のコントロールをアーティストサイドが行うという日本独自の業界慣習も矛盾を生みます。 自作自演のアーティストではない場合、作詞作曲家の 意思と関係なく、出版社が選ばれるのが日本の業界慣習で、出版権の位置づけが違っています。作曲家も国際化が進んでいく中、外国人作曲家にのみ出版権を認めるという外国人作曲家を逆差別している現状の矛盾の解消が求められています。
「作家事務所」の功罪
アーティストがプロの作曲家から楽曲を集める場合 は、コンペティション形式で数多くのデモを集めて選 ぶ方法が一般的ですが、公募形式で行われることはなく、レーベル担当者の人的ネットワーク内でクローズ に実施されます。新人の作曲家は、「作家事務所」と呼ばれるエージェントを介して、コンペに参加すること になります。
首尾よくリリース曲に選ばれた際に払われる印税 に対する作家事務所の手数料が、30%以上、中には50%という高率のケースもあるということで業界内 で問題視されています。
音楽出版社は楽曲開発、作曲家育成が本分の職種で す。欧米では、有望な作曲家には契約金を払って、その作家の出版権を取得するというやり方が一般的です。才能発掘という観点で作詞作曲家を取り巻く環境改善は、解決するべき課題といえるでしょう。
タイアップ楽曲の出版権管理
日本独自の業界慣習としては、放送番組のタイアッ プが決まった場合、その放送局の子会社が楽曲の出版 権を持つというものもあります。放送局による特権的 な濫用と見なされる行為には、そもそも独禁法違反の疑いがあるのですが、業界慣習ということで、長年、 放置されてきています。
音楽業界という「村の中の論理」で回すことができなくなった、デジタルとグローバルの時代は、これら 昭和に作られ、当時は合理的だった日本独自の業界慣 習をデジタル時代に合わせて改革することが求められています。音楽ビジネスにおいてもっとも大切なのは 音楽家であることはいうまでもありません。音楽家ファーストのルールへの再構築が急務です。
モチベーションあがります(^_-)