コンサートの仕切りがアーティストマネージメントの第一歩だ!
音楽を広めて(ヒット曲を生み出し)、アーティストを売り出す(スターをつくる)というのがアーティストマネージメントの本懐だとしたら、最も重要なのはコンサートをきちんと掌握することだ。キャパ2000人規模までのライブはマネージャーが収支も内容も細部まで掌握してやるべきだと思う。アーティスト初期から才能に入れ込んだコンサートプロモーター会社のスタッフが現れて、一緒にやれるとしたら素晴らしいことだけれど、少なくとも自分の住んでいる町でやるコンサートは、自力でリスクを負ってでもやるべきだ。地方でコンサートを継続してファンを獲得していくためには、地元の人たちとの連携が大切だ。自分が住んでいないとメディアの状況も掌握しづらいので、地元のイベンターやライブハウススタッフと密なコミュニケーションをとりたい。
コンサート制作会社という専門分野の職域がある。僕の感覚では、音楽的にもファン形成の側面でも、ある程度のレベルをクリアしたアーティストに関して、より効率的にコンサートツアーを制作して運営することを依頼するのがリアルで、0から1をつくる作業は、マネージメントとアーティストが担うのが自然だろう。
芸能系事務所は、音楽の作り方がわからないマネージャーも多いし、仕事の大半をテレビなどのメディアの露出に向かって注ぎ、コンサートの中身については、アーティストと制作会社に任せるというのは理にかなっている。
本書が想定している読者は「音楽の力と自分が惚れ込んだアーティストの才能を信じて」マネージメントの仕事をしたい人なので、はっきり伝えておきたい。アーティストとファンの最大のエンゲージメントの場である、コンサートをビジネス的にクリエイティブ的にもしっかりと掌握することが音楽マネージメントの第一歩だ。アーティスト自身でマネージメントしている場合は、内容については、客観的な意見をもらえる信頼できる人を作った方がよい。でも、売上と経費、そしてお金の流れをその裏にある意味も含めて、ちゃんと理解していなければ、セルフマネージメントなんて絵空事だと肝に銘じて欲しい。
『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!』(2017年9月刊)Chapter.5「重要度が増しているライブの現場」から
これは3年前に書いたコラムだ。2020年はコロナ禍でコンサートの実施が難しくなっている。ワクチンや特効薬が見つかるまでは様々な困難が続きそうだ。今、マネージャーに求められる追加スキルは、ネット配信に関する知見になっている。「音が悪い」「テレビで観せたい」などコンサート配信に関して音楽業界から出てくる意見は、ITリテラシーの低さを露呈させるものが多い。ライブハウスから創出する際のPCのスペックはどうなのか?通信環境のチェックはできているのか?配信会社マターだと思いこんでいるけれど、アーティストサイドの課題の場合が少なくない気がする。ユーザーがリビングのテレビで観たいならChromecastを使ってもらうようにファンを「指導」するやり方が簡単だ。Covid-19は音楽業界がぶっ飛びかねない大危機だけれど、世界で最もデジタル化が遅れている日本の音楽業界がDX(デジタルトランスフォーメーション)する好機でもある。アーティストとファンの最大のエンゲージメントの場であるコンサートをデジタル技術でもっと活かすようにしたい。