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Chapter4:世界の音楽ビジネスの現状<3>(海外インディ事情,コンサート市場とSXSWの意義)

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2020年〜21年視点での分析を加筆していきます。
 Chapter4では、欧米を中心とした世界の音楽ビジネスについての基本的な知識を押さえます。 状況を把握することから始めましょう。

世界のコンサート市場

 音楽ビジネスの中心が、レコードビジネスからコンサートビジネスに 移ったのは日本だけの現象ではありません。
 マドンナが 25 年間所属していたワーナーミュージックを離れ、代わ りに LIVE NATIONと契約したと発表されて驚きが走ったのは 2007年のことです。アーティストがイニシアティブを取るアメリカにおい て、レコード会社の役割は、ファイナンスとしての比重が大きいです。 多額の契約金を確保できる資金力のある会社を選ぶのは当然と言えるで しょう。
 2014年には、レディー・ガガが生みの親とも言える名マネージャー のトロイ・カーターとの契約を終了して、マネージメント契約を LIVE NATION と結んで話題を呼びました。

日米のマネージメント方法の違い

 アーティストマネージメントのやり方は、さまざまな違いのある日米 の音楽業界の中でも、最も違いが大きいところかもしれません。
 アメリカではアーティストがパーソナルマネージャーと契約をし、弁 護士とビジネスマネージャーを雇い、コンサートブッキングをするため のエージェントと契約を結ぶといった流れが一般的だと言われていま す。レコーディングについてもアーティストが責任をもって、マスター テープを完成し、レーベルと契約をするという形になるので、原盤権を数社でシェアすることも多い日本とは様相が違うようです。
 そう考えると、本書の提唱する“新時代型エージェント”は、アメリ カで言うところのパーソナルマネージャーとビジネスマネージャーを混ぜたような役割になるかもしれません。
 日本のプロダクションシステムを敵視するのではなく、共存、時には 活用して日本型の音楽業界の仕組みにアジャストするようなイメージを僕は持っています。

重要度を増すコンサートビジネス

 そんな中で、重要度を増している今後のコンサートビジネスの分野に ついては、どのように考えていけば良いのでしょうか?
 音楽ビジネスの構造も役割も日本とは大きく違うアメリカですが、 LIVE NATION の存在感は傑出しています。
 ここでは、LIVE NATION JAPAN代表社長の竹下フランクさん に、日米のコンサート興行の違いを伺いながら、日本市場に新規参入し ている LIVE NATION JAPAN の戦略も聞いてみましょう。
これからのビジネスについて、示唆的な内容となっています。

LIVE NATION代表フランク竹下さんのインタビューは本書をご覧ください!

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エイベックスもビクター もインディーズ!

 日本では“メジャーデビュー”という言葉がよく使われますが、世界視野ではメジャーレコード会社は 3 社しかありません。ユニバーサルミュージック、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナーミュージックです。それ以外は、インディーズレーベルと呼ぶのが普通です。
 日本レコード協会に加盟している18社は、国内ではメジャーレーベ ルと呼ばれますが、世界的にはインディーズレーベルなのです(強いて言うならドメスティックメジャーレーベル)。そして、日本はインディーズのシェアが非常に大きい国です。2014 年のシェア 1 位はエイベッ クスで、もちろんインディーレーベルです。
 アメリカでは、ユニバーサルが 4 割以上、3 大メジャーで 7 割近くを占めています。以前は BMGとEMI があって 5 大メジャーと言われていましたが、BMG はソニーに、EMI はユニバーサルにそれぞれ買収されました。レコード産業が成熟してきて、規模拡大が生き残り策に必要になっているからだと言われています。
 アーティストを見る際に、3 大メジャーと契約しているのか、各国の インディーズレーベル(ドメスティックメジャー)なのか、アマチュア (インディーズ)なのか、大きく 3 層に分けて理解すると良いでしょう。 日本は、メジャーとドメスティックレーベルの区別が曖昧で、事務所のパワーが大きく、その一方でアマチュア音楽家意識が低いという理由で、他国とはかなり違う様相を呈しています。ただ、SpotifyやApple は世界共通ルールですしYouTubeも然りです。 海外市場を意識しなければいけないこれからは、海外のパワーバランスを知っておくことが必要でしょう。

 世界の音楽ビジネスは寡占化が進んでいます。ユニバーサル、ソニー、 ワーナーのメジャー 3 社で 7 割を占める国もあります。一方、プラットフォームの事業社も Apple、Google(YouTube)、Spotifyとグローバルな大企業です。これらのパワーゲームの中で、音楽ビジネスの分配ル ールが決められています。では日本からビジネスを行なう時に、不利にならないためにどうすれば良いのでしょうか? 方法はあります。
 WIN(Worldwide Independent Network)という世界のインデ ィーズ団体が協力をして、2007 年に作られた NPO のエージェント Merilinは、デジタル音楽市場が広まる中で大きな存在感を示すように なっています。サービス事業者との交渉において不利になりやすいイン ディーズレーベルの交渉を代行して、メジャーに劣らない条件を引き出 しています。既に、40 カ国で 2 万以上のレーベルが委託をし、世界のデジタル音楽市場の 10%以上のシェアを Merlin が占めています。
 Melrin とは、日本のインディーズレーベルも契約可能です。インデ ィペンデント・レーベル協議会(ILCJ)や日本音楽制作者連盟などが サポートしてくれます。

 最近では、2014 年 11 月に YouTube が音楽サービス“YouTubeMusic Key”を始める際に、インディーズレーベルに不利な状況を Merin が克 服したことで、注目されました。音楽の多様性を担保するために、イン ディーズレーベルの存在は重要です。Merlin 代表のチャールズ・カルダ ス氏によると、フィジカル市場よりもストリーミング市場の方がインディーズレーベルのシェアが高まっているというデータがあるそうです。

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Melrin とは、日本のインディーズレーベルも契約可能です。インデ ィペンデント・レーベル協議会(ILCJ)や日本音楽制作者連盟などがサポートしてくれます。世界市場を意識する時に、押さえておきたい情報です。

音楽とITの祭典 SXSWから学ぶべきこと

 South by Southwest(SXSW)は、近年注目が高まっている世界最 大のカンファレンスです、最近は、ITとスタートアップのカンファレ ンスだと勘違いしている人もいるようですが、1987年に、音楽祭として始まりました。日本 REP の麻田浩さんの言葉を借りれば、SXSWは “勉強会”だそうです。スタートも、オースティン在住のマネージャー 達が、ニューヨークのレーベルを意識して、彼らに自分たちのアーティストを見せるショーケースとして、同時に音楽ビジネスのあり方を考 えるカンファレンスとして始まりました。  1994 年からはFilm部門、 1998 年からはInteractive 部門を加え、どんどん規模が大きくなってい ます。2007 年にTwitterがSXSWのAWARD受賞をキッカケに世界的にブレイクするという事件があり、IT サービスの企業にとっては外すことのできないイベントになりました。ロックバンドが夏のロックフェスを軸に年間活動プランを立てるように、世界の IT 事業者は、3 月のSXSW を意識して、サービスや新機能のローンチを行なうようになっています。

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 2015 年の来場者数は 72,000 人と発表されていますが、これは本部に登録料を支払った人の数です。この時期のオースティンには、非公式の"勝手イベント"も数多く行なわれていて、実際に訪れた人の数は公式 発表の数倍と思われます。テキサス州の田舎町だったオースティンは、 SXSW を行なうことで町として大きな発展をするようになりました。
 10数年前に訪れてから、自分がプロデュースするアーティストを出演させたり、日本音楽制作者連盟の理事として日本の音楽を紹介するJAPANPAVILIONブースのプロデュースをしたり、SXSWと僕の縁は深くなる一方です。Interactive部門が実施されている時期でも町には音楽が溢れ、IT と 音楽が一体であるということが肌で感じられます。音楽に対するリスペ クトを感じてうれしくなりますし、日本との彼我の違いを意識させられることが多いです。
 SXSW に行くことで、世界の音楽サービスの状況、IT における関心分野の変化などを感じることができます。ストリーミングサービスについても、2012年頃までは盛んに議論されていましたが、最近は、ドロ ーン(無人航空機)やロボットの話が多くなっています。音楽サービス については、「とりあえず Spotify 型と PANDORA 型になるんでしょう。あとはパワーゲームだから、その結果を見て考えよう」となっているというのが、僕の理解です。
そういう意味では、4 年くらい遅れている日本にもまだ追いつくチャ ンスがあります。日本のユーザーが教えてくれることに耳を傾けて、サービスを磨いてもらいたいです。もし、音楽関連サービスでストリーミ ングの次のイノベーションが起きてしまったら、完全に日本は音楽後進国になり、鎖国して守って、ゆっくり滅びるしかなくなると僕は危惧しています。音楽に関するイノベーションが起きる可能性が世界で一番高 いのは SXSW ですから、おそらく2015年現在、まだ大丈夫です。
 これからの音楽ビジネスで、最も大切なのは“デジタルファースト” の考え方です。音楽はテクノロジーの発展と共に進化していくし、テクノロジーを加速させる燃料に音楽がなれるのだということを SXSWから学びましょう。
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2020年12月付PostScript
 今、読み返すと感慨深い内容がたくさんありました。2020年視点でレビューしていきます。
 まず、日本独特の業界システムである「事務所」について(韓国音楽界は日本の影響を受けていることもあって、「事務所」形態があります)は、今年行った、芸能事務所団体、日本音楽事業者協会専務理事中井さんのセミナーレポートをご覧ください。日本の仕組みをUPDATEする必要があることもよくわかります。

 本文で語られている世界のインディーズレーベルの交渉代行団体Merlinは、これからの音楽ビジネスを語る時にキーワードの一つです。音楽ビジネス生態系が変化してレコード会社の役割が変わっている今の課題は、こちらのエントリーをご覧ください。

 SXSWとは、本書を出した後も関係はますます深まり、日本のコンテンツとテクノロジーのショーケース「JAPAN HOUSE」「JAPAN FACTORY」を2016年から3年に渡って行いました。AOI Proの事業開発部の皆さんの力をお借りして、僕自身もCo-Founder/Producerといて、日本からKeyNoteスピーカーをブッキングしてお連れしたり(石黒浩、こんまりなど)、PerfumeやStartoなどで最新テクノロジーを駆使したライブステージを行ったりしました。コロナが収束したら、またAustinにも行きたいです。

 また、本書執筆時点では、日本のDXは4年遅れと書いていますね、最近は6年くらい遅れていると言っているので、この5年間で、また2年ほど遅れてしまったのだなと、改めて悔しく、残念に思いました。
 日本の音楽ビジネスは、2〜3周の周回遅れになってしまっています。もう普通に頑張っても取り戻せないので、どうやったら「ショートカット」して追いつけるのはを考えるようになりました。やる気のある音楽家、マネージャー、そして起業家達と連携して、コンテンツ力自体には魅力がある日本の音楽をグローバル市場でどうやって広め、マネタイズするのかに、取り組んで行きたいです。

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モチベーションあがります(^_-)