Chapter3:日本の音楽ビジネスの仕組み<6>(お金の流れと収益構造を知る)
お金の流れと収益構造
章の最後に、音楽ビジネスのお金の流れを確認しておきましょう。
CD のリリースについては、この円グラフを見てください。メジャーレーベルでやるのか、自分たちでインディーズとしてやるのかによって 全然違います。自分たちでやる場合は、レコーディングだけでなく、ジ ャケットデザイン、印刷、プレスなどの経費を全部、負担します。ディストリビューターと言われる CD 流通会社と契約をして、CD店に営業をしてもらうのですが、その場合の掛率はだいたい50%前後です。気を付けなければいけないのは、返品の問題です。返品 OK(委託販売) にすれば、CD 店に置いてもらえる可能性は大きくなりますが、返品のリスクがつきまといます。
メジャーレーベルと契約する場合は、全く違ってきます。契約条件の 考え方については後述しますが、原盤印税が12 ~ 20%、アーティスト印税が1%、事務所に対する宣伝印税が1~2%というのが業界の標準 的な数字です。安いと思うかもしれませんが、製造費や返品などのリスクをとり、宣伝や営業に予算はスタッフを割いてもらえるので、どういう風に捉えるかだと思います。
ただ、問題は音楽配信に関する条件です。自社でやれば、売上の 50 ~ 60%が入ってくるのですが、レコード会社と契約する場合は、そうはいきません。本来なら、配信事業者からの入金を折半するなどが妥当だと僕は思いますが、レコード会社との契約では、上記のパッケージの 条件と同じ料率を提示してくるケースが少なくありません。交渉して“パ ッケージより配信が少し多い”という条件にするというのが、残念ながら今の日本の相場になってしまっています。これから音楽配信の比重が高くなっていく時に、この矛盾は大きくなっていくでしょう。最初の契約時に最も気を付けたいポイントです。
著作権使用料の分配
著作権については、前述の通り、作詞1 / 4、作曲1 / 4、音楽出版 社1 / 2という分配が一般的です。プロジェクトの状況によって、音楽 出版社部分の取り分を事務所とレコード会社が分けたり(1 / 4ずつに なりますね)、放送局系音楽出版社と3等分したり(1 / 6ずつ)とい うような形になります。
ポイントは代表出版社になるかどうかです。
JASRACやJRCに信託する際の窓口になる会社を代表出版社、それ以外を共同出版社と呼びます。法的には、代表出版社だけが著作権者だ という考え方になるので、代表出版が大切だと専門家は説きますが、分 配に関する事務的な手間は小さくありません。
大手の会社と組んでいるプロジェクトでは、入金が2 ヶ月遅くても、 分配の手間を避けて、あえて代表出版社にならないという選択肢もあり得るでしょう。最近は、JRCアカウンティングなど、安心して分配事務の委託ができる会社も出てきています。
コンサートの収益構造
コンサートについては、規模やアーティストのタイプによって、千差万別なのですが、大まかな項目を並べてみました。
数百人規模までのライブハウスであれば、あまり悩まずとも勢いでやることもできるでしょうが、コンサートホールを使うようになると、それなりのノウハウが必要になります。数千人規模以上の予算項目を説明します。
・会場費、付帯設備費:会場使用料は定価で決まっています。会場に よっては多少のディスカウントができる時もありますが、週末を押さえるのは難しく、半年から 1 年前に押さえる必要があります。会場に付帯している PA や照明、プロジェクターなどは、別料金がかかることがあります。
・出演料:メインとなるアーティストとは、そもそもどういう契約かを年間で決めておくべきでしょう。サポートミュージシャンが必要な場合は、その都度交渉することになります。ミュージシャンの実績によって大まかな相場が決まっていますが、最終的には交渉して決めることになります。
・スタッフ人件費:PA エンジニア、照明プランナー、照明オペレー ター、舞台監督、楽器ローディなどが必要になります。会場付のPAや照明にお願いするケースもありますが、その場合は、事前のリハーサルなどに丁寧に付き合ってもらうのは難しいことが多いです。規模が大きくなったり、複数のアーティストが出演する場合は、舞台監督をお願いした方がスムーズです。
・コンサート制作費:リハーサルスタジオ代、衣裳費など、ステージ 上で必要な経費は多様にあります。お金をかけ出したらキリが無い分野とも言えるでしょう。
そのコンサートの目的やアーティストにとっての位置付けと採算性を明確にして、方針を出しましょう。コンサート制作に特化して、制作を 請け負うコンサート制作会社も存在しますが、軌道に乗って、何回目かの全国ツアーというのなら別ですが、活動初期のアーティストは、コアなスタッフが中心になって企画運営することをお勧めします。
・イベンター経費:会場警備など、ステージ上以外の経費は、コンサ ートプロモーターが管轄するのが一般的です。プレイガイドなどに払う チケット手数料もこの中に含まれます。また、イベンターの取り分については、さまざまなケースがありますが、総収入や粗利益からのパーセント設定のケースが多いようです。
・収益性:これらの経費を全部足して、入場料収入から引いた金額が、 利益となります。収入見込をチケット単価で割ると、収支の境目になる リクープライン(損益分岐点)が分かります。会場キャパシティの7割以内にリクープラインを設定できるように、全体を調整しましょう。
・アーティストグッズは大きな収益源:コンサートで売るグッズも大 きな収入源です。製造原価を 30%程度に抑えて、ファンが欲しくなる商品をつくるのがポイントです。
売れ残ってしまうと在庫を持つ必要も出てきますので、売り切れる適量にすることと、ツアーだけで売りきれなかった際の販売方法を考えておく必要があります。
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コンサートの専門家はコンサートプロモーターですが、初期のアーティストのライブのリスクを取るケースはほとんどありません。あくまで事務所がメインで、サポートする役割となっています。
既存のファンクラブの仕組みは有効か?
ファンクラブは、年会費 4,000 ~ 6,000 円というのが一般的です。フ ァンクラブの運営委託を専門にしている会社があるので、数千人以上の 会員が見込めるなら、そういう業者に委託するのも 1 つの方法です。自 前で全部やると手間はかかります。1,000人以下だと利益は無いなとい うのが、経験則的な感覚です。ただ、日本のファンクラブの仕組みは一時代前のままになっています。ある程度人気が出た時に、コンサートチ ケットの優先やファンクラブ限定イベントなどを魅力にして、隔離するようなやり方です。
僕は、この従来型のファンクラブのビジネスモデルは時代遅れになっていると感じています。ソーシャルゲームなどを参考に、今の時代に合ったファンクラブモデルを作る必要があると思っていて、それについては後述します。
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以上が、音楽活動における主な収入源になります。音楽をメインにしているアーティストはテレビやラジオの出演からの収入はあまり大きくありません。宣伝目的と捉えられて、テレビの出演料も格安です。ラジオのゲスト出演は、レコード会社がブッキングした場合はノーギャラというのが業界慣習になってしまっています。
近年、増えてきた夏フェスなどのオムニバス型のコンサートは、出演料を交渉して決めて出る形になります。
アーティストや音楽のジャンルによってさまざまなケースがあって、 一概には言えませんが、一般的には、アーティストのブランドを上げ、 人気楽曲を出し、そのアーティストのファンを増やしていくことが、これまでの音楽ビジネスの基本的な考え方になっています。
“人気者になるとお金が儲かる”というエンターテインメントの基本 は、ビジネスの仕組みが変わっても同じというのが、僕の意見です。(Chapter4「世界の音楽ビジネスの現状」に続く)
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2020年11月付PostScript
音源(原盤)からの分配については、日本のレコード会社は、まだパッケージをベースにした契約にこだわっているようです。その方が有利なので当然ですが、経済的合理性や論理的整合性に欠ける契約内容になってしまっているのは現実です。コロナ禍もあり、デジタルシフトを加速せざるを得ない中、矛盾は大きくなりそうです。
詳細はこちらに書いていますので、ご覧ください。
音楽出版権に関しても課題は山積しています。海外との業界慣習の違う中で作曲家の活動がグローバルになって「逆差別」になってしまっていることやマスメディアの影響力低下による従来のやり方の矛盾です。
作曲家主導の活動、コーライティングが変化(ゲームチェンジ)を促進します。エイベックス創業者の松浦さんも指摘していました。
ファンクラブについては、SKIYAKIなどのITスタートアップが、運営の仕組みについては、DXさせてくれています。アナログに情報を管理して、会報を郵送する形の従来型のファンクラブ運営形態は減ってきていますね。
ただ、ファンがファンを増やしてくれるコミュニティー自走型のファンクラブがもっとあるとよいのにと個人的には思っています。
いずれにしてもデジタル化に対応した音楽ビジネスの仕組みへの転換は日本でも必要ですし、コロナ禍対応も後押しして、否応なしに進んでいくでしょう。
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