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大雪小径 ー 盛夏の花 ー

8月の大雪山は、色も形も特徴的な花が至る所にちりばめられています。今回は、8月上旬によく会える高山の花たちを紹介します。


高山植物に会いたくて登った大雪山。これまでに大雪山で出会った花は80種類を超えます。『大雪小径』の第4章としては、8月上旬に小径(=こみち)で出会える高山植物の花々を私の目線で紹介します。

はじめに

8月は、7月とは異なる特徴的な花に会える時期です。この時期に撮影した花を数えたら14種ですが、雪どけした場所では6月から7月の花に会うことができる特別な時期でもあります。
今回も花を色別に分類して、一部の花をピックアップして紹介します。

01 白花

この時期に会える白色系の花は、次の4種です。

クモイリンドウチシマクモマグサチシマツガザクラ、ワタスゲ

8月に会える白色系の花

ここでは、3種を紹介します。

クモイリンドウ

本州の高山に自生しているトウヤクリンドウの近縁種でエゾトウヤクリンドウとも呼ばれます。白雲避難小屋の周りにはたくさん咲いていますが尾根で見かけることはほとんどないように思います。

白雲避難小屋の庭園に咲く(2018年8月4日)

花期は長く、8月上旬に開花した花が少しずつ変化し、日が経つ毎に高貴さを増していきます。開花から1ヶ月ほど楽しめ、少しずつ秋の気配を感じさせてくれます。

雲間からの柔らかい夕陽に一層高貴さが増す(2019年8月30日)

チシマクモマグサ

ユキノシタ科ユキノシタ属に分類される通り、7月まで残る雪渓がなくなった岩礫地に一斉に咲きます。同じ花なのに中心部の蒴果さくかの色が異なるのが不思議でしたが、咲いたばかりは黄緑で徐々に黄色がかり、最後にと赤茶色になるように思います。

岩の隙間に咲く(2018年8月4日)

大きな雪渓が残る場所には大きな群落があり、岩礫地を埋める薄緑の葉と白い花は圧巻です。

雪どけした岩礫地の花畑(2020年7月29日)

チシマツガザクラ

6月はミネズオウ、7月はイワウメなどが咲いていた草原を小指の先にも満たない小さな花が埋め尽くします。つぼみは真っ赤ですが、花は白く花びらにピンクがのっています。

草原を埋め尽くす小さな花(2019年8月2日)

彩り豊かで四方に花開くすがたは花火のようでもあります。駒草平など標高が低い尾根では7月後半が見頃のことが多いように思います。小さな雨粒が彩りを引き立てます。

雨の日(2019年7月20日)

02 黄花

黄色系の花としては、次の3種に会うことができます。

エゾウサギギククモマタンポポ
ミヤマアキノキリンソウ(コガネギク)

8月に会える黄色系の花

エゾウサギギク

街中に咲いている花と同じように見えますが高山植物です。”エゾ”がつきますが、尾瀬や東北の山でも会えるようです。草原から頭ひとつ飛び出す鮮やかな黄色の花はこの時期目を惹きます。

陽光を浴びた鮮やかな黄色い花(2018年8月5日)

赤岳の山頂手前や奥の平でよく見かけます。チングルマが果穂になった草原で満開を迎えており、虫たちがひっきりなしに訪れます。

チングルマの果穂との共演(2018年7月29日)

7月の花として紹介したミヤマアズマギクとは、同じキクでも比べてみると色だけではない違いがわかります。

ミヤマアズマギク(2018年7月29日)

クモマタンポポ

白雲避難小屋の周辺でしか会ったことがないと思っていましたが、とても貴重な種のようです。以前、テントを仕舞う際に草地にシートがかかり、ベテランの登山者から「タンポポがあるから気をつけて」と注意されてからは特に意識しています。

白雲避難小屋の周辺でしか見たことがない(2019年8月2日)

ミヤマアキノキリンソウ

8月から秋にかけて咲くことが名前の所以のようです。金色の花を茎のさきに穂のようにつけるため”コガネギク”とも呼ばれています。

尾根と尾根の谷間の草地やハイマツに囲まれた岩礫地の草原で会えることが多いです。小さい花ですが果穂になったチングルマと緑の草原では目立つ存在です。

チングルマの果穂とともに咲く(2022年8月5日)

03 紫花

紫色系の花としては、次の6種に会うことができます。

イワギキョウ、ウスユキトウヒレン、エゾヒメクワガタ、
ダイセツトリカブトチシマギキョウ、ヨツバシオガマ

8月に会える紫色系の花

ここでは、3種を紹介します。

イワギキョウ

地面に近い場所に咲く花の中では大きめで存在感があります。形もきれいで造花のようにも見えます。後述するチシマギキョウに似ますが、イワギキョウの花には産毛がないので見分けがつきます。

太陽に向かって咲く(2018年8月5日)

白雲岳の頂上付近など岩礫地の草原に咲いています。朝陽をいっぱいに受けた花は透き通り、花の芯を灯したかのように見えます。

後ろ姿も絵になる(2018年8月5日)

ダイセツトリカブト

ハイマツやウラジロナナカマドの根元など、半日陰の場所から茎を伸ばし、独特の形の花を咲かせます。大雪山では白雲避難小屋の周辺以外ではあまり会えません。北海道の固有種で大雪山などの限られた場所に自生しているようです。

木陰から茎を伸ばして花を開く(2018年8月4日)

チシマギキョウ

前述したイワギキョウと同じ場所に自生しているため遠目では同じように見えますが近くで見れば違いは明らかです。本州の個体の花は、下向きに咲くことが多いようですが、大雪山の個体は上向きに咲いているほうが多いように思います。

花びらに毛が生えている(2018年7月28日)

04 緑花

大雪山で会える緑色の花はミヤマバイケイソウの1種のみだと思います。

ミヤマバイケイソウ

8月に会える緑色系の花

ミヤマバイケイソウ

白雲避難小屋の周りや緑岳中腹のハイマツ帯の雪どけ水で湿り気がある場所に自生しています。花とは思えない色をしています。

緑色の花をたくさんつける(2018年8月4日)

冬枯れの草原に一斉に芽吹いた様子は見応えがあります。なお、葉や根にはかなり強い毒があり、山菜のギョウジャニンニクなどに似ているようで厚生労働省のホームページでは注意喚起されています。

白雲避難小屋の水場のそばに一斉に芽吹く(2022年7月1日)

数年に一度、一斉開花すると聞いていましたが、2018年に続き2019年も会うことができました。

チシマノキンバイソウと共に咲く(2019年7月20日)

≪編集後記≫

写真は、7年分から選りすぐりを掲載していますが、こうして見返すとほとんどが2018年と2019年の写真でした。この2年間は天候が安定していたのか、花に恵まれた年だったのかもしれません。

月ごとにお花を紹介していますが、雪どけの時期や天候で開花の時期は毎年変わります。だからこそ毎年行っても楽しめるのかもしれないですね。

開花の時期はあくまで目安程度ということでご了承ください。

最近はこの時期、ヒグマが白雲避難小屋に近づくこともあり、自粛していましたが、久しぶりに行きたくなりました。

クマスプレーはしっかり持参して!

次回は8月後半に会える花を紹介したいと思っています。



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