耐えなくていいもの
今の職場で働き出して一年半が経った。
入ったばかりのころは中年女性従業員たちからひどい新人いびりを受けた。同時期に入った子は3ヶ月も経たずに辞めていったし、私の後から入った人たちも三日、一ヶ月でそれぞれ旅立っていった。
彼らを見送りながら、何度も辞めるか迷ったけれど、辞めると負けるみたいで悔しくて耐えた。
「私あなたの息子の嫁じゃないんですが?」って言いたくなるような小言もたくさん言われた。たんだん心が苦しくなっていることにも気づかないふりをして馬鹿みたいに笑って流した。
それでも、どんどん仕事を覚えてそんな人たちに聞かなくても十二分に仕事ができるようになれば、こっちが教えることも増えて「さすがだね〜」とか言われるようになった。
華麗な手のひら返しに「ばーか!しょうもない人たち!」と思いながら、それでも何人も辞めていった職場で耐えて認められたのだと思うとほんの少しだけ誇らしくもあった。
そんな職場に先日若い男性が入ってきた。
男性は二十代前半でスポーツ万能、文学にも興味があり、顔立ちもシュッとしている。
中年女性従業員たちが浮き足立つのを感じた。
案の定、男性は大してキツく言われることもなく、むしろ入って早々雑談を楽しんでいる。
ここでようやく「新人だからいびられてた」のではなく「彼女たちが気に入らなかっただけ」だったのだと気づいた。
「なーんだ、しょうもない職場だったんだな。耐える必要なかったな」
あまりのくだらなさに、「負けたくない」とか「まだできる」とか「せっかく仕事覚えたのに」とか、私の体にまとわりついていた重たいものが無くなっていく気がした。
残ったのは「耐えた時間が勿体なかったな」という少しの後悔。
耐えられることは一つの才能だけど、耐える必要のないものにまで耐えてしまうのは欠点だ。
先に卒業していった彼らは負けたんじゃない。
英断だったんだ。
私は彼女たちに負けるのではない。
私が見限るんだ。
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