河合さくら

鎌倉の里山暮らし。趣味は料理と読書、庭仕事。庭のキッチンガーデン化を計画中、夢は馬に乗ってサファリすること。こもる場所は書庫の中、定位置はキッチン。講談社ミモレmi-molletブロガーhttps://mi-mollet.com/category/blog-sakura

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「すべきこと」が明確な人生は、生きやすい。けれど⋯⋯

ひさしぶりに、留学中の娘とオンラインで話しました。学年末のレポートや口頭試問を終え、奨学金の財団にも報告書を提出し、数ヶ月ぶりに時間が取れたから「やっと、ゆっくり話せるから」と、連絡があったのです。 指導教官たちからの評価やコメントなど、学業や研究についての話のあと、留学先のコロナの状況、ウクライナ侵攻の影響で、ガス代が前の月に比べて3倍以上値上がりしたこと、ルームメイトたちと今後の光熱費の高騰をどのように対策するかを話し合ったこと、日本とちがって景気がかなり上昇しているの

    • 【書評】毒母は娘に何を遺したのか?〜水村美苗『母の遺産−新聞小説』

      読むたびに、異なる主題がみえてくる 10年前に読んだ時には「介護や女の自立を描いた」と理解していたこの作品に、以前とは異なる感想を持ったので書き留めておく。さすが水村美苗、いろいろな読み方ができる小説に出会えるのは、いつだって幸せ。 みんな毒親だったかもしれない どんな親でも「毒親」的な部分を持ち合わせているのではないだろうか。そして、親から受けた毒を子が糧(かて)として活かすには、親の背負う歴史を理解できるかどうかが分かれ目になるのかもしれない。 水村美苗著『母の遺

      • 【書評】対立しない善と悪〜吉田修一 『悪人』

        就職氷河期が若者世代にもたらしたもの 今から30年ほど前のこと。  バブル崩壊後、不景気の時代が始まり、多くの企業が新規採用者数を絞ったため、社会に出る若者たちにとって、のちに就職氷河期時代と呼ばれるほどの過酷な就職難が訪れた。追い打ちをかけるように、それまで専門職に限られていた派遣労働が製造業や建設現場でも可能になり、雇用は一層不安定になってゆく。  労働力を生産量に合わせて調節できるのは、企業側にとってのメリットは大きい。しかし雇用される側にとっては、いつ契約を切ら

        • 【書評】「あえて言葉にしない」に宿るもの〜乗代雄介『それは誠』

          小説が売れないとか文字離れだとか巷で囁かれはするけれど、日常生活で意思疎通に使われるのはLINEやX、インスタのDMなどSNSが主流だから、コミュニケーションが言葉そのものに依存する割合はいままでになく高まってきたと感じている。 この小説は、いまどきLINEをしない超レアキャラな少年誠の、高二修学旅行の回想録。両親不在で育ち、保護者はただの機能でしかないと見做すほどの愛情薄めの環境にいて、<友達は俺と僕と私だけ>と自嘲するこじらせ男子が主人公だ。交流ほぼ皆無であったクラスメ

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        「すべきこと」が明確な人生は、生きやすい。けれど⋯⋯

          【書評】こういうふうに、逝けたらよいな〜永井みみ『ミシンと金魚』

          昨年のすばる文学賞受賞作、56歳現役ケアマネージャーのデビュー作です。本好きの間で大きな話題になった小説ですから、既にお読みになった方もおいでかも。 主人公の老女カケイの「語りの世界」に圧倒され、(どうして芥川賞候補にすら選ばれなかったのだろうと不思議に思いつつ)、この物語の魅力をみなさまにお伝えしたくて、筆をとりました。 (以下、ネタバレあります。) 冒頭からドキッとさせられるこの物語は、主人公で認知症を患う老女カケイの大胆発言で幕を開けます。病院の待合室で診察の順番

          【書評】こういうふうに、逝けたらよいな〜永井みみ『ミシンと金魚』

          【書評】孤立のもたらすあやうさについて〜木村紅美『あなたに安全なひと』

          ひとと直接会うことが少しづつ増え、言葉だけに頼らないコミュニケーションの楽しさを改めて感じています。コロナ禍のこの2年余り、ひととの交流の形は大きくかわりました。この変化を、どのように考えたら良いのでしょう?こたえを求めて、わたくしは小説を読みます。なぜなら時代の違和感や変化に敏感な作家たちは、きっと作品の中で何らかの気付きをわたしたちに示してくれているはずだと思うから。 2つめのブックレビューでは、コロナ禍に書かれた作品を取り上げます。作者の木村紅美は近作『夜の底の兎』(

          【書評】孤立のもたらすあやうさについて〜木村紅美『あなたに安全なひと』

          スロー・リーディングの本棚から

          思っていたより早くに、セミリタイア生活に入りました。しなくてはならないことに100%支配されていた生活からの解放は、すべきことを探す旅路の出発点でもありました。 noteでは、むかし学生だったころのように本をじっくりゆっくり読むことで、気づきや実りの得られたブックレビューを、書き留めていけたらと願っています。

          スロー・リーディングの本棚から

          【書評】本屋大賞受賞作 逢坂冬馬『同志少女よ的を撃て』から学ぶ戦禍とは?

          世界中の戦禍を生きる方たちの無事を願いつつ (以下、戦争・暴力などのを含む内容です) ◆少女冒険物語として書いた理由と効果とは? 話題作『同志少女よ敵を撃て』は、冒険小説という「枠組み」を使い、戦争という重く悲惨なテーマを、女の子が主人公の冒険小説にしようと考えた作者逢坂冬馬さんの手腕が見事な作品です。親を亡くした少女が主人公であることや、女鬼教官率いる女子専門スナイパー訓練所での個性豊かな少女たちが繰り広げるシスターフッド満載の世界、いくつかの試練を経て大人へと成長し

          【書評】本屋大賞受賞作 逢坂冬馬『同志少女よ的を撃て』から学ぶ戦禍とは?