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4泊5日宮之浦岳縦走スケッチ旅

屋久島を直撃した台風10号の影響で、宮之浦岳へと登るほとんどの登山道が閉鎖されているようだった。その場その場で情報を集めながら臨機応変に登山計画を立てる。
登れたという人もいれば、目の前まで行ったのに登れなかったという人もいて、まさにパラレルワールド。内側の世界によって現れる現実はいかようにも変わるのだと鮮やかに見せつけられているかのようだ。

葉山から合流した鍼灸師の浜ちゃんと3泊4日の登山計画を立てた。彼とは内側の世界と外側の世界の関係性について良く話す仲だ。鍼灸師という職業柄、まさに一人の人間の身体をひとつの世界と捉えているので、その視点からはいつもインスピレーションをもらう。
絵を描く(意識を入れる)ことがまさに彼の治療と通じるようで、「縦走中、絵を描く時間も取ろう。」と提案してくれた。

グラム単位で荷物を選別するという山登り。画材だけでも3kgとなったが仕方なし。荷物は分担して持つことにした。

ヤクスギランド(名前に似合わずすごいスケール)を通って花之江河登山道から花之江河。栗生岳、宮之浦岳、永田岳と三岳を歩き、花山登山道を抜けて大川の滝まで歩くルート。1000mから登りはじめ約2000mまで、最後は0mまで歩いて下っていくルートだ。

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スギに着生するヤマグルマ

ヤクスギランド内。朝の光の中で迎え入れてくれるような感じがした。以降、すごすぎる木がこれでもかというほど現れるのだが、スケッチして時間を共有したためか今なお印象に残っている。

スギに着生するシャクナゲ

ビャクシン沢を渡った後あたりだろうか、シャクナゲ(石楠花)が次々と現れるようになった。花の時期ではなかったが、枝ぶりと葉のシルエットの美しさに、あっという間に好きになってしまった。

影も美しい
みはらし台からの夕暮れ

1日目、花之江河登山道が思ったより時間がかかったので、無理をせず途中でテント泊することにした。巨石が重なってできた空間で守られるように眠った。巨石の上まで登るとこの景色。
描き終えたころには真っ暗で、氣付いたら寒くてガタガタ震えていた。

白骨化したスギ

日の出の少し前に起きて巨石の上で朝を迎える。水平線近くは少し雲がかかっていたが次第に朝日が昇る。太陽が暖かい。
白骨化したスギが電波塔のように立っている。木が鉱物化して実際に何かを受信する役割になっているのだと思う。トーテムポールのように感じる瞬間が幾度とあった。

小花之江河

2日目、みはらし台から花之江河、少し道をそれて小花之江河まで足を伸ばした。ここは山々に囲まれた泥炭層の湿地で、ボウルの底のような場所だ。
着いた途端に二人とも眠くなり、お昼に炊き込みご飯を作って食べたらもうお昼寝しようとなった。寝袋にくるまり昼寝をする浜ちゃんのすぐ横まで木の実を取りにくる野生のヤクシマザル。小花之江河の時間は幻のように過ぎて、スケッチも幻想的な霧に霞む景色になった。奥に見えるのは豆腐岩。

小花之江河の白骨化したスギ「太郎」(勝手に命名)

白骨化したスギとシャクナゲの取り合わせが美しい。スケッチしたり写真を撮ったり、この両手を広げたスギと交流するうちに、いつの間にか「太郎」と呼ぶようになっていた。
夕暮れの太郎。星を抱く太郎。朝日を浴びる太郎。たくさん交流した。
さよなら太郎。またいつか。

宮之浦岳から見た永田岳

3日目、ついに九州最高峰、宮之浦岳に登頂。
宮之浦岳山頂から永田岳を描く。
2000m近い山の上はコロコロ天気が変わる。晴れたり霧がかったり時折雨もパラついたり。3時間描くも永田岳が現れた時間は全部で20分くらいだろうか。晴れては描き、雲がかかっては寝転がって待つ。
誰もいない山頂で、時々ヤクシカの鳴く声が聞こえる。晴れ間に海が見えた瞬間もあった。
3時間刻々と変わる山を見る。こんな贅沢な時間はなかなかないんじゃないか。
素晴らしい時間をありがとう。
描く時間を設けてくれて、こんな時間が訪れて、こんなありがたいことはない。

永田岳山頂の巨石群

4日目、宮之浦岳から永田岳へ。
昨日描いた永田岳の巨石たちが一歩一歩と近づいてくる。
山頂からは宮之浦岳、反対側には永田の集落から屋久島の灯台、口永良部島まで見渡せた。
荷物は山頂に置いたまま、画材だけ持って少し降りて描いた。筆洗の裏にある亡き母の直筆が何故か目に留まり、小さい頃旅先でスケッチをしていた父の姿も思い出した。

シャクナゲの森

永田岳から西側の大川の滝まで降りる。1886mから0mへ。海を見ながら氣持ちの良い下りの途中、シャクナゲの森を通り抜ける。少し鉱物的なその幹に、網目のように映る影が美しい。
今日はたくさん歩くので、さっと30分くらい色だけ拾わせてもらった。

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4日目の夜は最後の夜にふさわしく、杉の巨木に囲まれて眠った。
ちょうど倒木がベンチのようになっていて、二人でそこに座って月を眺めながら三岳(屋久島の焼酎)でささやかな祝い酒。
木々も苔たちもみんな参加しているような、ずっと起きていたかった夜だけど、あまりにも眠くてあっという間に眠ってしまった。

翌朝、水晶淵(勝手に命名)で顔を洗い、水を汲む。
水の島、屋久島。山の中あちこちに美しい水場がある。同じく水を飲みにきていたであろうヤクシカの足跡も前の水場にあった。
花崗岩の島なので、至るところで水晶や雲母がキラキラしているのだが、ここは特に静かな静かな淵で、空気にまでも水晶の粒子が溶け出しているかのようだった。木々の間から漏れる光の柱がそのまま結晶化して止まってしまいそうな。

1ヶ月に35日雨が降る、と言われる屋久島では、奇跡的に晴れ間の5日間。
最後は林道途中までMさんが車で迎えにきてくれた。手作りのお味噌汁が沁みる。
最後は海にドボンして、山頂から海まで水の旅。
水を巡る太古の記憶とともに。

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おまけ

トレッキングシューズと足袋。
木の根の多い屋久島の登山道。今回トレッキングシューズと足袋の両方を持って山に入った。
両者では体の使い方も、世界観も全然違うことが改めて驚きだった。トレッキングシューズは足を守ってくれて一歩一歩。足袋は足を自在に使えて(木の根を掴む、つま先だけで歩くなど)次の一歩のための一歩、という感じ。
荷物の重さを靴底で受け止めるトレッキングシューズに対して、重さ全てを足裏から土に流してしまうような足袋。
水場やジャリの歩道、雨が降ると大変だろうけど、足袋での山中、飛び跳ねるように動き回れて楽しかった○

2024.10.12

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