書くことについて思ったこと[読書日記]
発注いただきました! 朝井リョウ (集英社文庫)
企業等からの発注があり、それぞれテーマや設定があってそれに答えるかたちで書いた文章の本。
テーマや設定があるときは、それを前面に出して書くよりも、ちょっと後ろに隠れているくらいがおもしろいと感じた。
イメージとしては、テーマを地下に置いておき、一階部分から上は別のものを置いていく。そのなかで物語が展開するうちに、テーマが現れてくるかたちの物語のほうが、読んでいて惹き込まれる、という印象だ。
ただしエッセイの場合は、直球勝負もありだとも思った。
複数の要素のつながりを考え、テーマとなるものまで導き結びつけていく。もしくは、テーマを打ち出すために必要な要素を探し、並べてみてつながりを考えていくという方法も考えられる。
また、あらすじを書くのではなく、あらすじの中の登場人物を動かしていく描写のなかで、自然と作者が考えていることが置かれているのがいい。なんなら、作者が考えていなかったことまでも出てくるといい。
例えば、なにかについて批評、否定したかったとしても、ただ単にそれが書かれているだけではSNS上の不毛な放言と同じで、読み手には響かないだろう。
肯定からの否定、もしくは否定からの肯定をしてみたり、事象の背景まで視野に入れて記述したりすることで、物語や文章のおもしろさが引き立つと思う。それがあって当たり前の世界を置いておき、それが崩れていく様を描くこともいいかもしれない。
しかし結局は作者がその作品にどれだけコミットできているのか、どれだけ深いところまで潜り込めているのか、そういうものが作品の魅力に大きく影響を与えている気がする。
だからきっと「書きたい」ものを書くことが、読者を惹き込む要素なのだろうと思う。
ぼくが心地よいと感じる文章は、ちょっと重たかったり、冷たかったり、穿った見方をしているようなものだ。それはきっと、「作風」というものにつながるもの。
テーマに関わらず、テーマなんか関係なく、自分の書きたいことを書くことこそが、読み手のどこかを揺さぶるために必要なものなのかもしれない。
そんなことを考えさせられた作品だった。
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