中山りの

ふたつの仕事をしたり読書をしたりしているなかで、子どもたちに向けた言葉をどこかに置いて…

中山りの

ふたつの仕事をしたり読書をしたりしているなかで、子どもたちに向けた言葉をどこかに置いておきたいと思いnoteをはじめました。 それがひと段落し、読書で考えたことを置いていきたいと思っています。 読書メーターでは読んだ本のメモを、noteでは長文になってしまったものを。

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  • 遺言

    noteをはじめた理由。遺言。

記事一覧

恐怖と生きるために[読書日記]

くもをさがす 西加奈子 (川手書房新社) 先日、自転車で転倒して怪我をした。怪我自体は擦り傷と打身程度だったが、一歩間違えたら車に轢かれていたと思う。 そういえ…

中山りの
7日前
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物語の解釈[読書日記]

クララとお日さま カズオイシグロ (ハヤカワepi文庫) クララはお日さまを信じていた。 自らにエネルギーを与えてくれるお日さまを、愚直なまでに。 それは彼女が体験し…

中山りの
2週間前
1

「ある」と「ない」[読書日記]

月 辺見庸(角川文庫) 詩的な文章。散りばめられたメタファー。イメージの奔逸。 それでいて、作品全体から伝わってくるものが確実にある。 「ある」ことと「ない」こと…

中山りの
4週間前
3

欠落のありよう[読書日記]

アンソーシャルディスタンス 金原ひとみ(新潮文庫) アルコール依存であれ、整形依存であれ、関係性依存であれ、セックス依存であれ。 なにかしらの欠落があって、それ…

中山りの
2か月前
6

物語が残るということ[読書日記]

ハーメルンの笛吹き男 阿部謹也(ちくま文庫) 「ハーメルンの笛吹き男」伝説の成り立ちを広く、深く探求していく作品。その過程はほとんど物語のようだ。 伝説には少な…

中山りの
2か月前
1

まだまだ考えていかないと[読書日記]

相模原事件・裁判傍聴記 雨宮処凛 著 (太田出版) 今までいくつかの相模原事件に関する書物を読んできた。 そのたびに感じていた、植松への違和感。 それについて、著…

中山りの
3か月前
3

ただただ、好みの作品に出逢える奇跡【読書日記】

20世紀の幽霊たち ジョー・ヒル 白石朗 他[訳] (小学館文庫) 原著が発行されたのは、およそ20年前。 読んでみて、おそろしい、と思った。著者の才能を。 ホラー…

中山りの
4か月前
5

子どもの選択【読書日記】

メメンとモリ ヨシタケシンスケ(KADOKAWA) 先日本屋で、「一冊、マンガとか絵本じゃない本を買ってあげるから、好きなのを選んで」と、子どもにぼくは言った。 子ども…

中山りの
4か月前
5

普通を疑う。 【読書日記】

普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門  伊藤穰一、松本理寿輝 著(プレジデント社)  ニューロダイバーシティ、脳神経の多様性。  それは、マジョリティ…

中山りの
5か月前
6

「発達」の是非 【読書日記】

発達障害「グレーゾーン」 岡田尊司 (SB新書) 「近年、発達の特性は、障害ではなくニューロダイバーシティ(神経多様性)として理解されるようになってきている。それ…

中山りの
9か月前
4

お酒でサンタクロース【読書日記】

世界音痴 穂村 弘 (小学館文庫)  普段、家でお酒を飲むのは僕だけだ。  週に3、4日ほど、晩御飯どきにビールやウイスキーを飲み、アニメを観る子どもたちの横顔を…

中山りの
9か月前
11

書くことについて思ったこと[読書日記]

発注いただきました! 朝井リョウ (集英社文庫)  企業等からの発注があり、それぞれテーマや設定があってそれに答えるかたちで書いた文章の本。  テーマや設定があ…

中山りの
10か月前
3

細部と世界[読書日記]

彼女の体とその他の断片 カルメン・マリア・マチャド 著 小澤英実ら訳 (エトセトラブックス) ときどき、読み進めるのに時間がかかる小説がある。 それはただ読みにく…

中山りの
11か月前
8

掘り起こして磨く[読書日記]

第2図書係補佐 又吉直樹 著 (幻冬舎よしもと文庫)  又吉直樹さんによる本の紹介文。しかし一般的な書評のようなものではない。というか、ほぼエッセイだ。本の紹介は…

中山りの
11か月前
8

予測不能の世界の縮図[読書日記]

カード師 中村文則 著 (朝日文庫)  「合理的でない」「科学的ではない」とされるものが、人間の生活には深く根ざしている。もちろん、それらには良い面も悪い面もあ…

中山りの
11か月前
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日々精進(ゆるやかに)[読書日記]

奴隷の哲学者エピクテトスの人生の授業 荻野弘之 著 かおり&ゆかり 漫画 (ダイヤモンド社)  漫画と文章とのバランスが良く、どんどん読み進められる。また、漫画の…

中山りの
1年前
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恐怖と生きるために[読書日記]

くもをさがす 西加奈子 (川手書房新社)

先日、自転車で転倒して怪我をした。怪我自体は擦り傷と打身程度だったが、一歩間違えたら車に轢かれていたと思う。
そういえば、夜に自転車で走っていて転倒し、家に帰って鏡を見ると、顔面が血まみれだったこともある。
そのときの途中の記憶は、あまりない。
今思うと、死んでいてもおかしくなかった。そんな出来事を思い出すたび、恐怖がぬらっとすり抜けていく。
ふと、いつ

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物語の解釈[読書日記]

クララとお日さま カズオイシグロ (ハヤカワepi文庫)

クララはお日さまを信じていた。
自らにエネルギーを与えてくれるお日さまを、愚直なまでに。
それは彼女が体験した事実に基づいた信仰のようなものだった。

この物語の語り手であるクララは、AFと呼ばれる人工知能を持った子ども用の友達として買われる存在だ。
人間ではなくそのような存在を語り手にすることで、とてもシンプルで純粋な想いが表現され続け

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「ある」と「ない」[読書日記]

月 辺見庸(角川文庫)

詩的な文章。散りばめられたメタファー。イメージの奔逸。
それでいて、作品全体から伝わってくるものが確実にある。
「ある」ことと「ない」こととを行き来するかのような文体。それが「存在とは」と問うことを強く喚起する。

主にそれは語り手の視点からのもので、そこでは「さとくん」のことも語られる。
その設定は悪くない。むしろ、おもしろいと思うし、書かれている言葉のいくつもに惹かれ

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欠落のありよう[読書日記]

アンソーシャルディスタンス 金原ひとみ(新潮文庫)

アルコール依存であれ、整形依存であれ、関係性依存であれ、セックス依存であれ。
なにかしらの欠落があって、それを埋めるために人はなにかに依存する。
そうやって依存したところで、欠落は消えない。しかもそれは言語で端的にあらわすことはできない。
そのようにある欠落をぼくもおそらく抱えていて、ふとしたときにその穴を見つけてしまうが、やはりそれに名前を与

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物語が残るということ[読書日記]

ハーメルンの笛吹き男 阿部謹也(ちくま文庫)

「ハーメルンの笛吹き男」伝説の成り立ちを広く、深く探求していく作品。その過程はほとんど物語のようだ。

伝説には少なからず背景があり、「ハーメルンの笛吹き男」の場合にも中世ヨーロッパの社会構造が含まれている。
「子どもたちの失踪」が当時の植民や移住に、当時の市井の人々の世界観(現代の我々と比べれば、はるかに狭い世界像)までも視座に入れている。
また、

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まだまだ考えていかないと[読書日記]

相模原事件・裁判傍聴記 雨宮処凛 著 (太田出版)

今までいくつかの相模原事件に関する書物を読んできた。
そのたびに感じていた、植松への違和感。
それについて、著者のあとがきを読んで、腑に落ちる部分があった。
「何よりも人格に深みがない。少なくとも障害者のありように関して真摯に考えてきたとは到底思えないのだ。たまたま知った『気になる言葉』を拾い集め、自分流に解釈し、つなぎ合わせただけ。彼の信念や

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ただただ、好みの作品に出逢える奇跡【読書日記】

20世紀の幽霊たち ジョー・ヒル 白石朗 他[訳] (小学館文庫)

原著が発行されたのは、およそ20年前。

読んでみて、おそろしい、と思った。著者の才能を。

ホラー的な物語も、ファンタジー的な物語も、純文学的な物語もあったが、それらの分類に意味があるとは思えない。本書のなかのすべての物語は、ジョー・ヒル的な物語だ。

特に、子どもの内面、その不可思議さや自由さの描写がすばらしい。そしてそこに

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子どもの選択【読書日記】

メメンとモリ ヨシタケシンスケ(KADOKAWA)

先日本屋で、「一冊、マンガとか絵本じゃない本を買ってあげるから、好きなのを選んで」と、子どもにぼくは言った。
子どもはそれでもマンガ的な本ばかり探していたから、ぼくは耐えかねて「これ、いいと思うよ」って勧めた本。
まあ、こちらも存分に(すてきな)絵が置かれていたんだけど。

で、この本を子どもが立ち読みしたあとも、「これもいいんじゃないか」「こ

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普通を疑う。 【読書日記】

普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門  伊藤穰一、松本理寿輝 著(プレジデント社)

 ニューロダイバーシティ、脳神経の多様性。
 それは、マジョリティ(ティピカル、定型発達)が「マイノリティ(ダイバージェント、非定型発達)にやさしく」と上から押しつけるようなものではなく、すべての人々が多様な在り方をしているという前提に立ち、誰もが生きやすい仕組みを提唱するものだ。
 なお、マジョリテ

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「発達」の是非 【読書日記】

発達障害「グレーゾーン」 岡田尊司 (SB新書)

「近年、発達の特性は、障害ではなくニューロダイバーシティ(神経多様性)として理解されるようになってきている。それは、それぞれの人がもつ脳の特性であり、個性である。それを、わずか数個の診断カテゴリーで区切ろうとすることは、自然の多様性を、人間の決めた数本の境界ラインで区切るようなものである」
(p.220より引用)

たとえば、衝動的で判断を誤りが

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お酒でサンタクロース【読書日記】

世界音痴 穂村 弘 (小学館文庫)

 普段、家でお酒を飲むのは僕だけだ。
 週に3、4日ほど、晩御飯どきにビールやウイスキーを飲み、アニメを観る子どもたちの横顔を見ていたりする。一緒にわーきゃー言うこともある。
 漫画を読んでいる子どもたちと同じ空間で本を読んでいたりもする。同じく、子どもたちの姿をちら見しながら。

 穂村弘の「世界音痴」も、そうやって読み進めた本だ。
 読みながら、「この人め

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書くことについて思ったこと[読書日記]

発注いただきました! 朝井リョウ (集英社文庫)

 企業等からの発注があり、それぞれテーマや設定があってそれに答えるかたちで書いた文章の本。

 テーマや設定があるときは、それを前面に出して書くよりも、ちょっと後ろに隠れているくらいがおもしろいと感じた。
 イメージとしては、テーマを地下に置いておき、一階部分から上は別のものを置いていく。そのなかで物語が展開するうちに、テーマが現れてくるかたちの

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細部と世界[読書日記]

彼女の体とその他の断片 カルメン・マリア・マチャド 著 小澤英実ら訳 (エトセトラブックス)

ときどき、読み進めるのに時間がかかる小説がある。
それはただ読みにくくて面白くない小説かもしれないし、実はとてつもないことが書かれていて今の自分では消化できない小説なのかもしれない。

本書は後者だったようだ。

性的マイノリティや女性蔑視への抗いについてが強調されがちな作品だとは思う。やっぱりそこは、

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掘り起こして磨く[読書日記]

第2図書係補佐 又吉直樹 著 (幻冬舎よしもと文庫)

 又吉直樹さんによる本の紹介文。しかし一般的な書評のようなものではない。というか、ほぼエッセイだ。本の紹介はほんの少し。
 そして、こんな本の紹介の仕方があったんだ!と圧倒された。

 まず、エピソードがおもしろい。だから、その流れで紹介されている本に、自然に興味が湧く。
 著者が考えたり感じたりしたこと、それを表す文章力がおもしろいからこそ

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予測不能の世界の縮図[読書日記]

カード師 中村文則 著 (朝日文庫)

 「合理的でない」「科学的ではない」とされるものが、人間の生活には深く根ざしている。もちろん、それらには良い面も悪い面もある。
 そのようなものが蠢く世界でこの物語は進行し、実際に起こった事件も描写されながら語られる。様々な素材が絡み合って存在している物語で、力作だと思う。

 事故や天災など、何が起こるか予測できない世界で人間は意味を求めながら生きている。

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日々精進(ゆるやかに)[読書日記]

奴隷の哲学者エピクテトスの人生の授業 荻野弘之 著 かおり&ゆかり 漫画 (ダイヤモンド社)

 漫画と文章とのバランスが良く、どんどん読み進められる。また、漫画の後に背景が黒いページが挟まれて、本全体のデザインも良くて集中して読み進められた。

 端的にまとめてしまえば、まずは自己の内面をしっかりと見つめ、外的な要因など変えられないものはあきらめて生きていこうということか。
 ぼく自身は内向型の

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