ポケモンの名前に見る和英翻訳の妙技
先日、英語の先生と話しているときに、ポケモンの日本語名と英語名の話題で盛り上がったので、そのことについて書きます。
その先生はユダヤ系アメリカ人で、来日して日本語の翻訳者になるべく勉強をしている人です。
彼は小学校時代ポケモンカードの収集に熱中したのだそうです。僕は年が年だけにポケモンのことは近年までほとんど何も知らなかったのですが、数年前から iPhone で Pokémon GO をやっています。僕がそのことを話したのが発端でした。
そこで、「君の一番のお気に入りのポケモンは何?」と彼に訊かれて、咄嗟に思いつかずに、「えっと、妻はルージュラが好きですなんですけど…」と言いかけたら、彼が「ルージュラの英語名は何か知ってる?」と言い出して、そこから日米のポケモン名の話になりました。
で、ルージュラの英語名は何かと言うと、なんと Jynx なんですね。
jynx という綴りは何種類かの鳥の学名(ラテン語なのかな?)の一部としては使われていますが、英語の辞書では出て来ません。しかし、これは jinx ( y ではなく i )をもじっているのは明らかです。
jinx は、日本人は「縁起担ぎ」みたいな意味に解してしまいがちですが、英語本来の意味は「悪運」や「呪い」であって、これはルージュラの外見を模した「意訳」じゃないでしょうか?
でも、彼によると、こういう風に意訳されているポケモンはそれほど多くはないらしいのです。特に初期に登場したポケモンは、その当時これが英訳されるという意識は誰にもなくて、もっぱら日本語の音の響きや雰囲気でつけられた名前が多かったので、訳すほうも大変だったろうとのことです。
そして、そういう場合は、翻訳する側もあまり何も考えずに、音をそのまま移しているケースが多いようです。
例えばラプラスは Lapras、ギャラドスは Gyaradosです(ちなみに、ギャラドスに進化する前のコイキングは Magikarp で、これは明らかに Magic Carp から来ていますね)。
ギャラドスの語源についての先生の解釈がまた面白くて、ギャアギャア鳴きながらドスンドスンと動くからではないか、と彼は言うのです。さすが日本語研究者。
でも「ラ」はどこから来た? あと、ギャラドスには足がないから、ドスンドスンというのはちょっと違う気もしますけどね(笑)
ところで、ギャラドスについてもうひとつ書いておくと、英語で gya という文字列を目にするのは非常に珍しいので、このローマ字風の綴りには少し驚きました。
gap, gang, gamble, gallery, guaranty など、いずれもギャ音を含んでいますが、どの単語においても g の後に y なんかありませんからね。
閑話休題。
他にも先生はいろいろと持論を展開してくれました。
ロコンとその進化形であるキュウコンについて、「コン」はキツネの鳴き声から来ていて、同じ「コン」でも6本の尾を持つのがロコン、9本の尾に進化したものがキュウコンだというのが彼の解釈でした。
なるほど、確かにキツネ系と言われればそうです。
僕は僕で、尻尾を根っこになぞらえて、「六根」と「九根」にしたのではないかとずっと思っていたのですが…。
ちなみに家に帰ってから調べましたら、中国語では「六尾」と「九尾」なのだそうです(まるで魚を数えているみたいですがw)。
英語名では Vulpix と Ninetales で、後者はそのまんま九尾(= Nine Tails)のもじりかと思われますが、前者はラテン語系なんでしょうか? 先生にも意味は分からないとのことでした。
意訳系で秀逸なのは、これも先生が教えてくれたのですが、メタモンです。
メタモンは英語では Ditto なんですよ。僕は聞いた途端に「なるほど!」と、思わず膝を打ちました。
ditto は「同上」と訳されます。僕はこの単語を映画『ゴースト/ニューヨークの幻』で憶えました。現れたゴーストが "I love you" に対して "Ditto" と答えたことで、主人公の女性は、それが間違いなく死んだ恋人だと認識するんでしたよね。
辞書を引くと「複製」という訳語もあるので、まさに「へんしんポケモン」であるメタモンにぴったりの名称です。
さて、先生からこの日聞いた話の白眉はイーブイでした。彼は、イーブイという名前は逆に英語から発想してつけられたのではないかと言うのです。
イーブイは「しんかポケモン」ですよね。ほとんどのポケモンが何らかの進化はしますが、イーブイのように、その環境や条件によって8つの違う種類に進化するポケモンは他にはいません。
彼が言うには、「進化する」を意味する英単語 evolve の頭2文字を取って EV、つまりイーブイにしたのではないかとのことです。
これも非常に信憑性の高い説だと思いませんか? ちなみに、イーブイの英語名はそのまま Eevee です。
また、(これも帰宅してから調べたのですが)ドイツ語とフランス語ではともに Evoli となっていて、こちらは4文字共通なだけにしっかりと evolve を連想させてくれます。
あまりに面白かったので、帰ってからもいろいろ検索してしまいました。僕が重宝したのはこのサイトです:
驚いたのは、英語とイタリア語とスペイン語では共通の名前になっているということ。
それと、笑ったのはコラッタが Rattata って、あんた、それ、スクーターか!(って、ネタが古すぎて年寄りにしか分からんかw)
さて、今日捕まえたポケモンの英語名をひとつずつ調べてみましょうかね。