【国語】立ったり座ったり問わなかったり
立ち振舞い
一人ひとりの人間はそう簡単に変われないものですが、全体として人々の言葉は結構変わって行くものです。そういうわけで人間、いつの時代でも、年を取ってくると大体は若い人の言葉遣いが気に入らなくなったりするものです。
これは言葉遣いだけの問題ではなくて、「最近の若い者は…」という表現はすでにギリシャ・ローマ時代の文献にも書かれていたらしいですから。老人はずーっと不満なわけです(笑)
私もご多分に漏れず、新しい日本語のいろんな部分になんとなく違和感を覚えて、ここにもいくつかそんな文章を書いています。例えば「ぶりの繁殖」とか。
頭ごなしに「間違っている」と糾弾したいわけでもありません。言葉って変わって行くもんですから。
ただ、最近もうひとつ気になっているのが、「立ち振舞い」という表現。これは我々世代の常識からしたら「立ち居振舞い」なんですよね。
若い人からすると、その「居」って何よ?ってことになるのでしょうね。
「居」は動詞「居る」の語幹であり、連用形です。「居る」って、「いる/いない」の「居る」?と思われるかもしれませんが、それは現代語の「居る」で、古語の「居る」は「座る」なんです。
「居眠り」というのは、横にならずに座ったまま眠ることです。
「居合い」というのは、元々は座ったままの姿勢から抜刀する斬り方でした。
「居ても立ってもいられない」というのは「じっと座っていることもじっと立っていることもできない(ほど気が気でない)」という意味です。
「立ち居振舞い」というのは「立つ」「居る」「振舞う」の3点セットなんです。つまり、立っている時と座っている時と動いている時です。「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」って言うじゃないですか。あれと同じ構造です。
それが「居る」を落として「立ち振舞い」にしてしまうと、人間の基本動作のうち1つが抜けたままで、なんか不完全な形容になってしまうと思いませんか?
え? 寝てる時が抜けてるって? 寝てる時はいいんですよ。どうせこっちも眠ってて分からないんだから(笑)
──なんて話を、調子に乗ってしていたら、それから2時間ぐらい経ってからある人に言われました。「『立ち振舞い』も広辞苑に載ってるよ」って。
あちゃー、「ぶり」の新しい使い方よりもひと足早く、「立ち振舞い」はすでに認められ始めてるんですね。
まあ、上に書いたように別に言葉の警察になるつもりはないので、それはそれで良いんです。ただ、語源と言うか、語の成り立ちを知っておくのも面白いと思いませんか?
経験太い
で、最後にもうひとつ、これもこの間聞いて気になった言葉を書いておきます。
先日「この求人は経験太いだから」とか「この会社は年齢太いだから」みたいなことを言っている人がいて大変驚きました。
え? 経験は豊富か乏しいかだろう? 年齢は若いか年食ってるかじゃないの? 大体その「太いだから」っていう外国人みたいな変な表現は一体何?
──と思ってよく聞いてみると、これ「経験不問」「年齢不問」でした。それは「ふとい」じゃなくて「ふもん」じゃ!
今はこれ笑い話ですが、読み間違いがいつの間にか定着した日本語って実はたくさんあります。「稟議」とか「捏造」とか「代替」とか…(ここでは詳しく書きませんが)。
だから、ひょっとしたら 100年後には「経験ふとい」も「年齢ふとい」も辞書に載っているかも知れません(笑)
しかし、ま、ほどほどにしておきましょう。そんなことばかり書いてるとみんなに嫌われるよ、って言われそうです。所詮年寄りの戯言。どうか不問に付していただければありがたく思います。
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言葉に関して他にもいろいろ書いています。例えば:
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