29歳 Uターン転職を考える
何度も地元に帰ろうと思ったことがある。
大学進学を機に実家を出てから10年が経った。地元の大学を選ばず、その代わりに就職は地元に帰るからと宣言していたものの、結局地元の地銀の内定を辞退し、東京に本社を構え地方都市にいくつか営業所を持つ上場企業に入社を決めた。
なんということはない。22歳の田舎娘は、地方都市での4年間の大学生活で味をしめたのか、山に囲まれ畑と田んぼと駅前繁華街と国道沿いのチェーン店しかないような地元に戻ってあくせく働くことよりも、未知なる大都会・東京での社会人生活にたいそう惹かれてしまったのだ。
しかし、26歳の時、父が認知症と診断された。
それから母は、家の大黒柱となり、介護施設で働きつつ家事をし畑仕事もし、親戚付き合いや近所付き合いまで、何年も一人で全てこなしている。本家ではあるものの、今はもう昔の裕福な家ではない。
弟は車で3時間ほどかかる街で仕事をしている。弟ひとりに任せられる事態ではない。
実家に帰るたび、少しずつ小さくなり細く白くなっていく父を、私はまだ直視できず、どう接していいかもわからないままだ。情けない。
小さな頃はいつも日に焼けていて、平日の帰りも遅く、土日はいつも畑や田んぼに出ていた。ふざけることが好きな父だった。表情が乏しくなり、もうしばらく外には出ていない。とても大人しくなった、裏を返せば、できることがとても少なくなった。
母は気丈に振る舞うが、心労の程は計り知れない。
私は都内の比較的安定した企業で正社員として勤めている。そこそこにキャリアも積んできて、このまま頑張り続けていれば、そこそこにはなるだろう。そのキャリアを捨てて、果たして望むような条件の職種にUターン転職できるのだろうか。
このようなご時世なので、田舎に引っ越して、月数回出社さえすればあとはリモートでも回せるようになったという話をよく聞く。残念ながら今の私の仕事はそういったワークスタイルに適していない。転職するほかないが、果たして都合よくそんな仕事にありつくことできるだろうか?
キャリアだけではなく結婚できるかどうかも心配だ。地元に戻ったら、より一層結婚も難しくなるのではないか。こんなことを考えてしまう自分もまた情けない。
仮に東京で頑張って結婚できたとしても、相手によってはひょっとしたら実家から縁遠くなり今以上に気を配れなくなってしまうかもしれない。
どこにいようが結婚できるかわからないなら地元に戻ってしまったほうがいいのでは?とも思う。私がひとり東京で暮らしていたところで誰が幸せになるわけでもない。でも実家に戻れば、少なくとも親孝行にはなるかもしれない。
決して戻ってこいとは言わない両親への罪滅ぼしのように、長期休暇のたびに必ず帰省し、こまめなメールや電話、父の日や母の日のプレゼントは欠かさず送っている。そのどれもが根本的な解決にはなっていないことはわかっている。
答えはまだ出ない。まずは東京にいながらできることを模索するしかない。