岡本太郎ーたとえ現在、自由に描けなくたって
岡本 太郎ー「今日の芸術 時代を創造するものは誰か」より抜粋。
私の決意というのは、第一には、きわめて簡単なことです。今すぐに、鉛筆と紙を手にすればいいのです。なんでもいいから、まず描いてみる、これだけなのです。要するに、芸術の問題は、うまい絵をではなく、またきれいな絵をでもなく、自分の自由にたいして徹底的な自信をもって、表現すること、せんじつめれば、ただこの“描くか・描かないか”だけです。あるいはもっと徹底した言い方をすれば、「自信を持つこと、決意すること」だけなのです。
ぜったいにうまく描けないことはわかりきっています。だが、まえに言ったとおり、下手なほうがいいのです。きたなかったら、なお結構。くりかえして言いますが、けっしてうまく描こうと考えてはなりません。
(中略)
自分かってに描いているはずが、いつのまにか知らずしらず人まねみたいになってしまう。そこで、自分には独自なものが出せない、と言って、がっかりする人がいるかもしれません。しかし、今すぐに自由な気分で描けなくても、そんなことでガッカリする必要はないのです。
自由であろうと決心したうえは、たとえ現在、自由に描けなくたって、それでもかまわない、というほどの自由感で、やってみなければなりません。これはひじょうに大事なポイントですから、よく心にとめてください。