連れ合いが日本で一番好きな店 豆腐処「おかべ」
(タイトルと本文の画像は、「おかべ」のHPからです。)
日本に初めて行った時、連れ合いは、会う人の多くに聞かれた。
日本の料理は食べられる?何が好き?
連れ合いは、北米西海岸で育ったので、日本食は、まったくの異文化ではなかった。会った頃から、箸も使ったし、寿司やら天ぷらやら、レストランで見かけるもののだいたいは知っていた。
わたしと付き合いだしてから、彼がめずらしがり、気にいった和食は、家庭料理だ。名前のつかない、おかず。そう若くなかったせいか、お好み焼きやカレーには、それほど反応がない。いちばん好きな日本食は、茶碗蒸しや焼きなす、揚げだしどうふ。
こんにゃくは、野菜からできているのを知って、平気になった。ごぼうは、歯ごたえがいいので喜ぶ。戦争中に、捕虜に食べさせていたら、根を食べさせたと戦後、罪に問われたという話もおもしろがった。
日本料理は好き?連れ合いは、限られた語彙で答える。
好き。やすこの料理はおいしいから。じょうずだから。
何が好き?
なんでも。
いちばん好きな料理は何?
連れ合いは言う。
冷ややっこ。
続けて言う。
お茶漬け。
聞いている人らは、大笑いしている。
料理が上手なのね、と私のほうを見て。いや、この人、本気で、とうふが好きで。それに、わたしは、子どもの頃から料理が好きで、、。
もう、誰も聞いてない。なんで、ひややっこなの。あげだし、じゃないの。ひややっこ、という言葉を紹介したのを、後悔する。でも、「切ったとうふ」と言われなかっただけ、ましなのかな。
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その連れ合いが、日本に行く時、必ず行きたがる店。岡山市の表町にある、とうふ料理店、おかべ。
店のウェブサイトの「メニュー」から。
カウンター席は、12人くらい。前は、3畳ほどの、座敷席もあった。
ランチ時しかあいてなくて、頼めるメニューは、豆腐定食、揚げだし定食、湯葉定食のみ。ご飯と漬物以外は、すべて豆腐料理。冷奴、揚げだしどうふ、厚揚げ、季節の白和え、とうふの味噌汁。
豆腐料理で有名な店なら、京都やほかの街にもある。でも、店の人によると、豆腐料理しかないという所は、この店だけだそうだ。
口数すくなく、カウンターの内側で、3、4人の女性が、手早く注文をこなす。目の前で揚げてくれる。
食べているから、あたりまえと言えばそうだが、言葉が出ないくらい、おいしい。
わたしの連れ合いは、日本でいちばん好きな和食の店、とまで言う。彼の主観だが、わたしも、イチバンのひとつとも思う。
この評価を、地元でこの店を知る友人らは、納得してくれる。でも、それ以外の人たちには、「ひややっこ」と言って笑われたときのような対応を受ける。大笑いでなく、冷笑。
豆腐レストランなんて。東京でも京都でもなくて。ほかの所に行ったことないんじゃないの?
日本の中心じゃないところで、いちばん、ってナシですか。
まあ、連れ合いは、わたしに惹かれるような人なので、その好みは、信用できるものではないのかも。
一度、この店で、近くのお寺で修行しているという、黒い袈裟を着た、背の高い、青い目剃髪のお坊さんと隣りあわせた。
そのあと、私は、このお坊さんを、機内や米国の空港で、2回も3回も見かけた。目立つ風貌だったので、気づいた。
3回目に出くわした時に、私は、ほかの人たちとも、こんなふうに、何度もすれ違っているんだろうなと思った。
それでも、会う。気がつく。運命、というと、ちょっと違う。縁、かな。
出会うまで、何度もすれ違っていた気がする、連れ合いとわたし。会ってなくても、いっしょになってなくても、それはそれで、わたしたちは、自分が幸せだった自信がある。それでも、縁が結べたことは、やっぱりありがたく思う。
連れ合いが、日本でいちばん好きかも、という店。おかべ。
これも、縁、かな。