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息をするように取り組む仕事

機能改善士®として活動されている、大西恵子さんのnoteをいつも興味深く読んでいます。

大西さんが以前、物流会社で働いていたときのエピソードがこちら。

何一つ、一人前に仕事が出来なかったし、新しいことを覚えるのに、人一倍時間がかかっていましたから、早く出勤することで時間を捻出しようと思いました。そして、仕事ができない分、一緒に仕事をする方たちのために、少しでも気持ちいい環境を整えようと思いました。

当時はまだ男女雇用機会均等法なんてありませんでした。女性は男性の補助業務や雑務ばかりさせられるだとか、お茶汲みなんて必要ないという声が出始めてきた頃です。

私はそういう声に疑問を感じている1人で、仕事に雑務なんてないし、掃除もお茶汲みも自分の目的を持って行えば、立派な仕事だと考えていました。
後輩ができても、朝の掃除とお茶出しは私の仕事だからと言って、結婚するまで三年間続け、結婚後、後輩にその仕事を引き継ぎませんでした。

業務と職務』より

《仕事に雑務なんてないし、掃除もお茶汲みも自分の目的を持って行えば、立派な仕事だ》という考えを、大西さんは次のように表現しています。

仕事には業務と職務の二つがあります。
業務とは、自分が担当する仕事のこと。
職務とは、一緒に仕事をする人たちのために、仕事がしやすい環境を整えること。
職務の中に、あいさつ、共有スペースの整理整頓、ゴミを拾うなどが含まれます。
そして、この両方ができて、仕事をしているとみなします。新人や若手だからやらなければいけないわけでなく、上司も先輩もみんなでやるべきこと。出来ていないのなら、まず自分が率先して取り組むことも必要です。

居心地が良いなと思うお店やオフィスでは、昔も今もみんなが自然に職務を全うしているなと感じます。

業務と職務』より

《自分が担当する仕事》である《業務》は当然として、それに加えて、《一緒に仕事をする人たちのために、仕事がしやすい環境を整える》ための《職務》まで取り組むことが大切である、と。

この考え方、どこかで見たことあるなと感じたのですが、OCB(Organizational Citizenship Behavior)がそれでした。

部下・後輩の手持無沙汰を防ぎ、「一人でできる仕事」を増やす際に役立つのが「OCBリスト」です。
OCBとは「組織市民行動」のことであり、「誰かがやってくれると助かる」「やらないと、ポテンヒットになってしまう(誰も拾わない)」仕事を指します。
言わば「雑用」のことです。
ただ、雑用と言われると、部下・後輩も気分が良くはありませんので、「OCB」と言い換えて伝えることをお勧めします。

対話型OJT 主体的に動ける部下を育てる知識とスキル』より

このOCBの説明は、OJTの文脈におけるものであるため、大西さんのように「部下・後輩が自発的ににそういった行動を取る」といった視点とは異なり、「上司・先輩が部下・後輩に対してそういった行動を用意することで、部下・後輩が職場に溶け込むことを促す」といったものになっています。最初は上司・先輩が用意したものであっても、取り組む過程で周囲の感謝・信頼を得て、それが部下・後輩のなかで動機づけにつながり、いずれは自主的に取り組むようになる、というOJTとしてのサイクル(の最初のきっかけ)を描いています。

大西さんの言葉に戻ると、私が印象的だったのは《後輩にその仕事を引き継ぎませんでした》という一節です。

ここが、《職務》をOCBたらしめているのかな、と感じたのです。

つまり、大西さんが自発的にやっていた《職務》を、他人に引き継いでしまうと、その人にとってそれは、《業務》に変質してしまう。もちろん、《業務》として《あいさつ、共有スペースの整理整頓、ゴミを拾う》をすることが悪いことだとは思いませんが、《職務》として取り組むときに比べると、本人の中での意味づけが異なってきます。

たとえば、ある人の仕事量が多すぎて、残業が続いていたとします。上司と「残業しないように、どの仕事を減らそうか」と相談する場面を想像してみてください。《業務》として《共有スペースの整理整頓、ゴミを拾う》をやっている人は、これらを「減らせるかもしれない仕事」として、検討のテーブルに乗せるでしょう。

一方で、《職務》としてそれに取り組んでいる人は、おそらく削減する候補としては挙げてこないのではないでしょうか。なぜならそれは、課された役務としてではなく、《一緒に仕事をする人たちのため》という、人間として自然に発露する感情に導かれて、あたかも息をするように、自然になされる行為だから。そう、《自然に職務を全うしている》状態というわけです。

ある人の意識のなかで、《職務》としての範囲を広げていくためには、大西さんがそうだったように、本人の意志や努力によるところが第一です。それに加えて、OCBの説明にあったように、周囲のはたらきかけによって、《職務》として取り組む機会を増やしていくことも、大切なのだと思います。

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