マジでふっつ~!のおばちゃんがFTR秩父&奥武蔵30kを完走した話
雑誌でもnoteでもSNSでもいいんですけど、トレイルランナーの記事、読んだことあります?
超人ばっかりですよ。
普通の主婦なのかなあ、と思って読んだら超人。
まだ初心者なんだなあ、と思って読んだら超人。
始めて1年しか経ってないのに100㎞とか完走してたり、
100㎞完走した翌々週くらいに違うレースに出ていたり。
人類を超えた人、コレ超人の類ですわ。
しかし私は、なんの誇張もなくフツー。
46歳まで体育でしか長距離走をしたことがなく、すぐ息が切れるし、ちょっとした風邪で肺炎になるし、30歳まで喘息だったし、今は慢性鼻炎だし、貧血の低血圧で巻き爪で老眼だ。
いかにもフツーの中年らしいコンディションでしょうが。
そういう48歳が、30㎞のトレラン大会を完走した、ということを誉めてほしいんですよ。
誰から?
全人類から。
いや、森羅万象から。
そこを行く犬の散歩の人から「よくまあやりましたね」と。
犬からも「すごいわんわん!」と。
言われる価値があると思うんです。
前置きが長くなりましたが、
この記事は「FTR秩父&奥武蔵100k/30k」という大会レポートです。
100㎞走る人が1000人、30㎞走る人が500人もの大会。
…えっ?100k走る人の方が多いの……?
世の中にどれだけ超人がいるのか、途方にくれてしまいます。
寒さと緊張で震えるスタート前
11月の秩父の朝はすごく寒い。
そのうえ、「本当に30㎞も…?死」という緊張感でガクブル。荷物を預けて走る準備を整えた後は、朝陽で背中をあたためながら、スタートまでちいかわのように震えていました。
だって練習でも30㎞なんて経験していないのです。
20㎞も行けばいい方という感じ。
30㎞あるなら、練習で30㎞以上走っておきなさいよと思うじゃないですか。
でも走る人ってなぜか、
「20㎞走れるなら40㎞の大会に出られる。
50㎞行けるなら100㎞の大会に出て大丈夫」
って自信満々に言うんですよ。
超人のよくないところだと思います。
なんとなく真に受けて、自己最高が24㎞(これも大会)なのに30㎞の本番迎えちゃってるじゃないですか。
この大会はプロトレイルランナーおっくんこと奥宮俊祐さんが主宰。
ブリーフィングでおっくんから「このレース初めての人~」と問いかけられると、思ったより多くの人が「はーい」と手を上げたのでちょっと安心。
ほかのレースには出まくっているかもしれないが、私のような初心者仲間もきっといるはず。
スタートは一転、走れる喜びとともに!
冬場のランニングイベントのつらいところは、薄着でスタートを待たなければいけないところです。
秩父の朝は、さっっぶい!!
口から湯気がもうもうと、きかんしゃトーマス状態。
「今すぐ走り始めないと、凍死!」という感じで、なんと緊張が飛んで行きました。ラッキー!
人間、「緊張<死の危険」なんですね。
おかげで、ようやく走れる~!という喜びでスタートを切ることができました。地元秩父のお囃子部隊が、笛や太鼓で盛り上げてくれます。ふつふつと闘志が湧いてくるような、原始の時代に狩りに出かけていくような勇んだ気持ちで走り出せました。太鼓の音の威力!
私は夫とともに、長い列の後ろの方にいました。そういうところにいる人というのはみなさん、ガツガツ系ではないんですね。ゆっくり楽しみます~という感じで、走り出しもゆっくり。私にぴったりのペースで集団は進み、羊山公園から細いトレイルに入ってからなんかつっかえちゃって、徒歩に。
30kの部はロード6割、トレイル4割
ロードよりトレイルが好きなので、ロード率の高さが気になってはいたものの、走ってみればやっぱりロードはラク。起伏ゆるやかで、足元に気を遣わなくても進んでいけます。
途中で、顔見知りのボランティアスタッフさんに遭遇しました。
以前トレランセミナーでお世話になったベテランランナーさんで、いつも優しく頼もしく、笑顔のまぶしい方なんですわ。
「がんばってー!」と声をかけてもらって、疲れ始めた心身ががぜん元気に!
こんなとき、人の心と体というのは不思議だなあと思うのです。
嬉しい!と思うと疲れや重さがとんでいく。
「がんばれ」がNGワードといわれる昨今だけれど、闘っている人や努力をしている人には「がんばって!」と声をかけたくなるし、自分もかけられるとパワーがみなぎります。
それは「もっとやれ」ではなくて、「応援してます」「あんた最高」という気持ちだから。
あれか、がんばりたくないのにがんばらざるを得ない状態でキツイ場合は、「がんばれ」がよくないのか。
ともかく、
思ったより疲れることなく順調に10㎞まで来られました。
一度だけ、「このまま調子よく行けるのか……?」と考えてしまって胃がキュッとなったけれど。
なぜ、思ってもマイナスにしかならないことを思って自分を追い詰めるのでしょうね。
すぐさま「死ぬわけじゃなし」と極端な投げやり自意識を引っぱり起こして対処。根がテキトーでよかったと思う瞬間です。
エイドの神様たち
12㎞地点のエイドに到着。
手持ちのカップにコーラを注いでもらい、おいなりさんやバナナをほおばります。
くーっ、コーラがうまい!バナナが助かる!
エイドの方々は明るくランナーを励まし、ねぎらい、心も体も満たしてくれる神様。
そんな神々のいるエイドというのは、言ったら神殿ですわ。
以前、「FTRみなの」という大会でボランティアスタッフに参加したことがありました。受付と、完走証を渡す係。「暑いなかお疲れさまでした!」「ナイスラン!」とねぎらえてよかったけれど、エイドスタッフとして応援してみたいという憧れも湧いてきましたよ。
ボランティアスタッフの多くは自分たちもランナーで、「支えてもらったから、次は自分が支えたい」と考えている人がたくさん。尊いなあ。ランナーではなく参加している人はさらに尊い……。心があったまる~。
いよいよ急坂の続く山の登り
エイドをこえてしばらく行くと、山に入るルートです。
これが急でね……。
自分の周りはゆっくり組だし、駆け上るような人もいない。それでも、普通の登山よりはちょっと、みんな速いんだと思うのよ。列についていくのがやっとで、息も絶え絶え。
この大会は自分史上最長距離のトレランでもあるのだから、ここに向けて夏場は登りを意識して練習してきました。それでも、めちゃくちゃキツイ。もし練習していなければ、列についていけなかったと思います。
上りの途中で、顔見知りのスタッフさんがまた現われて
「このコース来たことあるでしょ?大丈夫、いけるいける!」と励ましてくれました。
私「ゼイゼイ、たしかに来たことあるけど……ハアハア、前より急になってません?」
スタッフさん「地形は変わんないな!」
いや~、あれは、急になってたと思いますわ。
山頂近くに2つめのエイドがあり、ここで温かいお汁をいただいて生き返りました。ストーブに当たって、イスに座ってゆっくり休憩。
エイドはやっぱり、神殿。サンクチュアリ。
回復呪文を唱えられたかのように復活し、おかげさまでゴールまでの残り13㎞をがんばれそう!
下りになれば、こっちのもん。走り方は生きざまなのか?
私にとってトレランの魅力は、なんといっても下りにあります。
重力にあらがわず、力を抜いて駆け下りる爽快さよ!
たのしい!
上りと平地は激遅ですが、下りだけは次々に前の人を捕捉して抜いていけるのです。
上りが得意だというのに私に合わせてゆっくり進んでくれていた夫を、無情にも置き去りにしてバビューン。
のちに夫は「あっという間に見えなくなった」と述懐しております…すまない。
でも仕方ないんです。ここで抜き去っておかないと、どうせ上りでは抜かれるので、あまりにも差が開いてしまうのです。どれだけ抜いても、抜いた人とゴールは同じもしくは私が後ろなんです。
あれだけ登るのが大変だった山も、下りはあっという間。
すぐに山を抜けて、元来たロードを戻るコースに入ります。
いつのまにやら、残りは5km。
「これは完走できる!」という喜びとともに、この時点で最長記録なもんで、骨盤から足が外れそうになってきました。
そんな人見たことのないので大丈夫だとは思ったんですけど、どうにも付け根が不安定で骨盤を押さえて走ったりしました。
マゾっけ☆120%肯定なメッセージを横目に、外れそうな足を止めることなくコツコツ進みます。
だいたいずっと同じくらいのところにいた同じ年くらいの女性数人も、自分のペースで地道に進み続けています。
彼女たちは、私のように遅くなったり速くなったりすることなく、登りも下りも平地も同じペースでコツコツ進んでいました。
なんか……「人生」という二文字が浮かんできましたね。
私がはしゃいでスピード出したり、へばって歩いていたり、かと思ったらまた抜いてきたりしたのを、あの方々はどう思っていたのだろう。
本当に完走できるなんてね!!
「もうひとふんばりすればきっとゴールが…」なんて思っていたらフイに、ゴールすぐそこじゃん!と直前で気づきました。
急に現れた(ほかの人は見えてたと思うけど)ゴールに面食らうと同時に、
ゴールの瞬間は表情筋が崩壊。
おそろしいほど口角が上がってしまった。
そういう妖怪なの?というほどの顔で、笑いジワ100本ゴール。
でもそれくらい、うれしかった。
こんなにも「やっっったーー!!」と思うことは自分の人生の中で数えるほどしかありません。
大学に受かったときと、前回の24㎞の大会(もろやまトレラン)完走と、この大会の完走。
じわじわではなく爆発的に喜びに見舞われるというのは、人生においてこの3回くらい?!長距離の醍醐味ですね。
「私本当にやるなんてマジですごい」と全わたしがわたしの全存在を全肯定。もうべた褒め。
ここまでの陶酔は、このときしかありません。
だってすごいでしょうが、普通のおばちゃんなんですから!
目標は「制限時間(7時間)以内のゴール」だったので、叶えることができました。できました……が……
117人中93位かー! と思うと、欲が出ます。
次回はもうちょっと、70位くらいに…と思いきや、次回の「FTR秩父&奥武蔵」は30㎞の部はなくなって、50㎞の部が新設されるのだそう。
……50㎞はないわ……。
普通のおばちゃんだから、50㎞はないわ…………。
ちなみに、あとは100㎞と100マイル(約160㎞)の部になるんですって。
超人がすぎるでしょう、あなたがたホントに。えぇ?
100kmを行く選手に声援
帰り、夫が運転をしてくれて私は助手席でぐったり(助かる)。
もう真っ暗な山沿いの国道の歩道を、100㎞の部の選手が走っているのが見えました。
あの人もう10時間走り続けていて、ここからさらに明日の朝まで山の中を進み続けるんだ……!
30㎞で骨盤から足が抜けそうになった程度の私は、もうその後ろ姿にこみ上げるものがあって、助手席の窓を開けて「がんばってくださーい!」と大声で叫んでしまいました。
ランナーは元気に「ありがとうございまーす!」と応えてくれた。
あんなすごい人が1000人も真っ暗な山の中を走っているなんて、人間ってどうなっているのでしょう…とつくづく。
そしてまた、凍えるような寒さのなか大勢のボランティアスタッフがランナーを夜通し支え続けてもいるのです。
人間って、熱い。
そんなことをしみじみ体感した「FTR秩父&奥武蔵」でした。