うちの弟。
朝一番に家族LINEにおめでとうのメッセージを送った。
今日は弟の誕生日なのだ。
平日休みの接客業の彼は今日はどうやら休みだったようで、お昼にのそのそと返信がきた。
「ありがとう。喜ばしい反面、着実に老いてきています。特に体力。」
なんとも若くない文面である。
彼とは4つ離れているのだが、思えば昔からどこか理論的で、学生時代もハイテンションになるというようなシーンもほとんどなかった。
毒舌で、自分のこだわりを曲げないタイプだが、外ではうまく立ち回っているのでなんだかんだで要領のいいやつである。
そんな彼も、もう社会人で立派な大人。
姉としては感慨深くなるものである。
弟とは昔から仲が良い方だ。
幼い頃の弟は、とにかくぼーーっとしていた。
外遊びよりもおうちの中でひとり遊びをすることが好きで、周りの男の子たちに比べてだいぶ大人しかった。
(両親は結構心配していたらしい。)
どちらかというと私の方が男の子のようで、やれ外でドッジボールだ鬼ごっこだととにかく騒がしかったようにおもう。
我々は正反対だったのだが、私がイライラしても弟はどこかぼんやりしているので喧嘩になるのもバカバカしくなるのだった。。
昔、家族で水族館にいった時のこと。
それはメインイベントのイルカショーでの出来事だった。
颯爽とイルカたちが空高く飛んでいく光景に、幼い我々姉弟は興奮していた。
私はワーワー騒ぎ、弟は静かに盛り上がっていたのである。
すっかりイルカに夢中になっていた時、なんと思いがけないことにステージでイルカを触ることができるというアナウンス…。
これはもう何がなんでも触りたい!
イルカに触れたい!
それはもう全力で手を挙げた訳である。
珍しく弟も積極的で、手を挙げている。
こうなったら姉弟も何も関係ない。
勝負である。
そして、幸運なことに我々姉弟はセットで指名を受けることに成功し、見事ステージに上がることができたのだ。
(今思えば、私がめちゃくちゃうるさかったのだと思う…苦笑)
私は浮足立っていた。
ステージでイルカに触れるし、しかもなんかみんな見てくれている。
目立ちたがり屋魂に火がつき、手を振るなど求められてもいないリアクションをしている始末。いま思い出すとなんとも恥ずかしい…。
弟はというと、なんとステージに上がるやいなやイルカにめちゃくちゃビビッている。
引率してくれていた父の後ろで隠れ、その隙間から覗いており、誰が見ても触らない雰囲気だった。
飼育員の方が気を遣ってくださり、弟に声を掛けて大丈夫だよ〜と誘導をしてくれていたのだが、私は我慢できず先に触らせてもらった。
(姉とはこういうものなのである…でも他のお家は違うのかな…)
すると、弟は泣き出した。
そして泣きながらもイルカに指先でちょこっと触ってまた大泣きした。
父は笑いながら謝り、飼育員さんも笑いながらなだめ、私はひたすら(なんで泣く?怖くなくない?)と、全く理解できない弟の行動に不思議顔でいた。
後から聞くと、自分が先に触りたかったそうだが私が「先に触っちゃうねー」とシャラっとイルカに触ってしまったことが悔しかったそうな…
先にイルカを触りたい欲求と恐怖心の狭間で、彼は戦っていたのである。
私からすると「遅いなー」ということも、彼のタイミングでは「早すぎる」だったのだ。
そして、内に秘めた負けず嫌いがなんとなく垣間見えた瞬間でもあった。
幼い頃はこのタイミングがあまりに合わなすぎてイライラすることもあったが、年齢を重ねるにつれてお互いにいいペースにもっていけるようになったのは、大人になった証拠なのではないかとおもう。
また、昔からなんだかんだで優しい彼は、今も昔も良き話し相手になってくれることもありがたいことである。
おうちでのひとり遊びが好きで、かなりのビビり屋だった彼が、今はスーツ屋さんで様々なお客さん相手に接客をしている。
そして、外遊びが好きで物おじしないタイプだった私が今やおうちやオフィスでカチカチとこもってお仕事をしている。
幼い頃の二人の性格が、大人になって逆転するとは思わなかった。
家族といえど、人の人生というのはわからないものだなぁと思いつつ、人生の先輩として「体力はこれからもっと落ちてくるよ…」と、アドバイスを打ちながら弟に会える日を楽しみにしたのだった。
リアルな弟は久しぶりに会うと本当にデカい。
(大体喫煙スペースにいる。)