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怪書☆ステハゲ!

 或る日、いつものようにステハゲの更新された動画を見ようとYouTubeを立ち上げた。いつもは氏の動画の前半部分にある初動奇行を楽しみ、コメント欄の大喜利を観てさっさと閉じてしまうのだが、その日はふと概要欄をのぞいてみた。そこには何やら見慣れぬ文字列が並んでいた。「ステハゲの本」→と書かれており矢印の先にはURLが貼ってある。AmazonのURLだ。さてはまたほしい物リストの乞食でも始めたのかと初めは呆れたが、飛んでみると本当に「ステハゲ」とデカデカと表紙に書かれた本が載っていた。出版日を見ると2023年12月となっている。動画では大々的に紹介されていなかったので全く知らなかったが、遂に本まで出したか。多分、以前盟友スーツ氏が悪趣味な装丁の本を出した時に嫉妬の混じった恨み言を吐いていたのが功を奏したのだろう。良かった良かった。しかも紙の本もあるようだし。出版不況の中、本当に名誉なことだ。だが、値段を見て吃驚した。税込2200円。新書サイズであるというのに、笑えるほど強気な値段。しかし、ステハゲ伝説が活字となったのだ。視聴者としては買わずにはいられない。
 氏の動画には稀に字幕がつくことがあるが、その時の動画は神回と言って毎度重宝される。なぜなら、彼の活字化能力にはかなり定評があり、非常にセンスがあるためだ。2200円。高くないのでは!?
 このことも手伝って結局即買いした。しかし、執筆者のところにステハゲと並んで載っている宮部正毅とは誰のことだろう。ステハゲのペンネームか?いや、それにしては雅で硬派な名前すぎる。まさか代筆じゃあるまいに。

(購入の後、彼の生配信の切り抜きにて代筆であることを知る。ステキッズ=宮部氏が配信や動画などを文字起こししてステハゲの人生を振り返るという構図であるらしい。ステ本人は出版にはほとんど関わっていないとのこと……。ただ、言うまでもなく主張や言動に関しては全てステハゲから発せられたものが元になっている。原稿には一応目を通して許可を出したらしい。)

(この構造はなんだか可笑しい。ステハゲは書籍を出したいとか言っていても結局自分で何かを書くのは面倒なのだろう。金にもならぬのだろうし。それでこのような奇妙な出版物が出来上がったわけだ。本書は宮部氏の書き起こしによって、ステハゲの一人称で語りが進むと言う形態をとっている。「如是我聞」でもなく、「イエスはこうおっしゃいました」でもなく。「私(ステハゲ)がこうやったんです、こう言ったんです」と(宮部氏が執筆して)進む。尊師ステハゲが本書を通じてステキッズの心の中でどのように浮かび上がってくるのだろうか?)

 届いてみて驚いた。ISBNコードがきちんと付いている。どうせ適当に作ったミニコミ的なものかと思っていたのに、出版社もついて意外とちゃんとしている。重要なのは、ISBNが付いているということはつまり=BOOKOFFで確実に売れるということ(数十円で)。流石はステ様、激安都市川崎育ちの視聴者思いの庶民派YouTuberである。加えてデカいのは国会図書館に入るということだ。万世一系をインキャ呼ばわりした天下の国賊中山春二の出版物が国会図書館に入り、ジャパニーズレコードの一つとなるのだ。世も末である。YouTubeの動画はいつか消えるかもしれないが、国会図書館はクーデタや天災が起こらない限り消えることはないだろう。ステハゲ様の名声が後世に轟くことを願ってやまない。

 ISBNが付いていると言っても所詮は底辺YouTuberの本。ステチル若番コムドットや高須などの本とは違って一切装丁などにこだわりは見えない。以前同じような悪趣味な装丁の本(礼二に帯を書かせたやつ)にを出していた盟友スーツでさえも、現在では『スーツの鉄道青春夜行』なるそれなりにセンスの良い見た目をした本を出している。一方で、こちらは金文字でデカデカと悪趣味に「ステハゲ」と書かれているのみ。だが、「ステハゲ」という一切説明不要のド直球な題名とゲテモノ感溢れる表紙にはステ様の丈夫振り(りっこ28的な)が大いに感じられるはずだ。

 中身はもっとワイルドだ。一応幼少期から子を持つに至る現在を辿る自伝的なものとなっている。しかし、浪人、留年、退社と波瀾万丈の生涯を送る氏をもってしても、中央大学小学部の文才を以てしても新書サイズの文量にさえなかなか届かない模様であり、小噺なる適当に動画から取ってきたコラムをめちゃめちゃに載せてどうにか新書サイズの体裁を保っている。挙げ句の果てには「陰キャラフィットネス」の活字版をやったり(活字化してみたり)、義務教育時代の夏休みの研究について一コラム設けている(氏のクリエイティブ活動の端緒の紹介としては機能している。)始末である。だが、これをもって我々がすべきは、この生き恥を笑うことではなく、自分が自伝を書くことになったとしたら一体何頁のものになるだろうかという自問自答自己批判である。多分、薄っぺらい情けない惨めな何も起こらない自分の人生をどうにか書き記しても、数十頁にもならないはずだ。ここは一冊の本にどうにかこうにかなるだけの人生を歩んできたステを礼賛すべきである。ただし、この問題に関してはステハゲ氏にも突きつけられるだろう。後半、SESを一瞬で辞めた後、結婚して子どもができるにしたがって明らかに書くことがなくなっているしクリエイティブに対し熱量が下がっているようにみて取れる。(元になっている動画等も高須幹弥等が主張するように過激さが影を潜めていった。)多分、1:十分な文量に達したのでとっとと終わらせたかった、2:書くのに疲れた、3:ステハゲ本人インキャラ視聴者にいつまでも付き合っている暇はないから、といった単純な理由があるに違いないだろう。しかし、一ファンとしては氏には頁をいっぱいに埋め尽くすような一層の奮起と狂気の発露と波瀾万丈を願う。彼の奮起はいまだにステハゲを楽しんでみているような根暗人どもの生きる糧となり、高須やスーツの活性化にもつながるはずだ。

 内容に関して言えば、生配信レヴェルまできちんと追っている人にとっては一度は聞いたことのあるものがほとんどとなる。しかし、ステハゲ氏の類まれなる狂気的な人生は活字になったところで全く楽しさは減ることがない。また、就活の裏話やリヴァプールでの短い滞在での話などは(私は)初めて聞く話であったのでとても興味深かった。特に就活編に関しては、動画からは全くもって社会不適合ながら底辺職にかろうじてありつけたという印象を受けたが、意外にも底辺会社に於いてそこそこ面白いコミュニケーションが取れていたということが判明し至極驚いた。ここはやはり宮部氏のステハゲ研究の深さと心酔度を評価すべきである。

 本書で何より面白かった、注目したのはやはり動画のテーマでも根幹を為す彼の幼年〜青年時代の描写である。活字にされてみて再認識したのはやはり彼の幼少期、青年期のの描写は非常にきめ細かいと言うこと。ぼっち故に磨かれた鋭い観察力と考察力と過去への回想が光る部分である。松本人志や高須光聖が克明に語る少年期の思い出とはまた違った角度で提示される郊外の平成年間を生き抜いた青春は、ノスタルジックであり、同時にグロテスクだ。幼年期の残酷さと青春期の多感さが軽妙な語り口(文体)から特徴的に存分に滲み出ている。孤高の裏返しにある絶望や苦悩。それらに関する記述は「ぼっち」や「学歴」、「インキャ」、「社不」というキーワードで動画に辿り着いた読者に再度突き刺さるであろう。そして、その間に混じってくる氏の「ぼっち」や「インキャ」というステロタイプにとらわれぬ啓示(=奇行)に救われるに違いない。孤高の希望の光に照らされるに違いない。

 まとめると、
 初めは只のゲテモノ本だと思っていたが、結論、この形態というのはステハゲの全くテキトーでクズと言うパーソナリティが生み出したものであり、ステキッズにとってはこの出版も含む現象全てを芸術と捉え得るものであることに気付かされた。また、奇妙な活字化がなされることによって、むしろ彼の奇行とそれ自体がニュートラルに浮かび上がってくる。その結果、本書は、尊師ステハゲに未だ心酔し、神と仰ぐものにとっては、再度ステの狂気を確認することのできる必読、必携の書となるのであろう。



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