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隣人は選べない。さてだいじょうぶか?ネイバー現る【#16家にまつわるストーリー】

さて頭を抱えたのが広い庭です。夫が生きていたなら、こんなに広い敷地がほしかった夫が自分の責任で考えればいいし、悩めばいいし、楽しめばよかったのですが、死なれてしまってはすべてがわたしの荷物であり責任です。

暑くなるにしたがって虫も増え雑草も生えてきました。寄ってくる虫の量にねを上げ、とりあえずの応急処置にと電撃殺虫器を買って置いてみたところ、ホラー映画レベルで虫が捕れました。

佃煮にするわけじゃないんだから、たくさん捕れると喜んでいる場合ではありません。これでは「暖簾に腕押し」「糠に釘」ってやつです。こんなに殺生しても虫がいなくなるわけもなく、せいぜいわたしが地獄に堕ちるのが関の山なので電撃殺虫はあきらめました。

早くなんとかしないとと思っていたある日のこと。

隣人と名乗るおじさんが、ゴルフカートに乗って現れました。

日本ではふつう引っ越してきた人が隣近所に粗品を持って挨拶にまわることが多いようですが米国では逆です。隣人が引っ越してきた人にウェルカムの気持ちを込めて挨拶に訪れることが多いのです。

「ハーイ、隣に住んでいるパットです。昨年の工事開始のときからずっと興味深く見ていました。やっと引っ越して来たのですね」

そう言いながら、見ごとな花を咲かせているハンギングバスケットをどうぞと、差し出しました。

息子夫婦とわたしで初対面のご挨拶をし、しばらく立ち話をしました。

先方も「新たな隣人」がどんな人物かを探ろうとしていることがアリアリ伺えます。わたしたちもまだどんな人かはわからないので、警戒しつつ聞かれたことにだけ答えます。

正直言って、こんなときでも自分がここではアジア人であることを意識します。特にトランプ政権以降、ヘイトクライムや差別的な事件が起き分断の進んでいる米国の現状があるので、警戒せざるを得ません。ミシガン州も田舎地帯はとても保守カラーが強いため、白人ではないというだけで、いい感情を持たれない可能性だってあります。

雑談から、以前わたしもお世話になったことがあるタイヤショップの元オーナーだったことがわかりました。数年前にリタイアと同時に隣の家を買って、一人で住んでいるそうです。

このときの印象は「気の良さそうなおっちゃん」って感じでした。

わたしは、自分のフィーリングをかなり信頼しています。わたしが良さそうと感じれば、たぶん先方にも悪印象は持たれていないと思います。お互いに笑顔で気持ちよく会話できたので、まずまずです。

数日後、お花のお礼を兼ねて焼き立てパンを持ってお隣に顔を出してみました。お隣と言っても見えない距離です。どちらの家もメイン道路から玄関に続くドライブウェーがかなり長いので車で行きました。

そもそも、銃社会の米国では見知らぬ人が他人の家の敷地に入れば撃たれる可能性だってありますから、丸腰でのほほんのこのこと現れるのは危険なので、気をつけなければいけません。

車を停めると、パットはちょうど外で日なたぼっこをしていて、にっこり笑ってわたしを呼び寄せました。

How are you? 

初めて足を踏み入れた隣家の庭を目にして、その美しさに驚きました。

なんでも、リタイアしてからはガーデニングや畑が趣味なのだそうです。

「長いこと店を経営してきて、人と接することからやっと開放された。人間はめんどくさいから、今は植物と対話するほうが好きなんだ」

そう言いながら、自慢の庭に関心を持たれてうれしそうです。

それにしても、手入れの行き届いた庭の美しさはプロ顔負けですから、ただ感動しました。

「良かったら中を見ていきませんか?」

と迎え入れてくれた巨大な倉庫みたいなところには、KUBOTAのトラクターが2つもあるし、そのアタッチメント、得体の知れない数々のツールが所狭しと並んでいます。

「おもちゃ箱みたいなものさ。最高のリタイアメントライフだろ?」と苦笑いしています。

趣味が高じて造園業者並みの器具を自前で所有しているのです。こんなところにも、アメリカのスケールの大きさを感じました。

「ちょうどうちも芝を張らないといけないので、造園業者に見積もり頼んだところですけど、適正価格すらわからない素人なので、こんど教えて下さい。そもそも家は夫の夢でしたが昨年、建築途中で亡くなってしまったのです。新しい家に引っ越したら、プリンセスしていればいいと言われていたので、楽しみにしていたのに夫がいなくなりプリンセスどころではありません」

悪い人ではなさそうなので、ちょっぴり気を許してしまい、あれこれ話してしまいました。

そんな感じで、パットのおもちゃ箱とお庭を見せてもらってパンを置いて帰って来ましたが、ここでよくわかったのは、庭仕事や造園関係のことならよいアドバイスがもらえそうです。

さてさて、これはひょっとすると、ラッキーなネイバーさんかも!!

【#17 家にまつわるストーリー】に続く



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yahoi /ライフエディター・エッセイスト
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