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【邦画新作/短文レビュー】『ラストマイル』塚原あゆ子監督

トップ画像:(C)2024「ラストマイル」製作委員会

監督:塚原あゆ子/脚本:野木亜紀子
配給:東宝/上映時間:128分/公開:2024年 8月23日
出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ

映画が始まってすぐに驚く。満島ひかり演じる主人公が、普通に嫌な性格の人物なのだ。巨大な流通倉庫のセンター長なのだが、配送された荷物が届け先で爆発し死者が発生する未曾有の事態にも、業務を止める気など毛頭ない。それは責任ゆえの決断と目をつぶるとしても、そのために犯行予告らしきものを見つけても報告しないし、部下を使いっ走りにするし、下請けの宅配業者には「うちとの取引をやめたら、あなたの会社はどうなりますかね」と強迫して無理難題を押し付ける。職権を盾に弱い立場の人々をこき使うのは、ただのパワハラでしかない。

プロセスだけを抜き出せば、阿部サダヲ演じる宅配業者の支店長のほうが、よっぽど物語の主人公たり得ている。取引先からの無茶な欲求に対して必死に答えるも、社内の上層部との板挟みになり一度は我慢の糸が切れて全てを投げ出し、しかし最後には復活して仲間とともに一矢報いることに成功する。中間管理職の一発逆転ものとして、遜色ない。TBSでも日曜劇場で放送されそうなドラマだ。

改めて思い返すと、この映画はサイドストーリーが強固にできている。警察も、ドライバーも、荷物を待つ母子も、いずれもが適度にドラマティックな物語の主人公だ。世界観を共有するドラマ『アンナチュラル』『MIM404』の登場人物たちも同様である。そんな中で、最後まで主人公然として捉え切れない満島ひかりと、そもそも捉えどころのない岡田将生だけが、何やら異物として中心に残る。そんな映画だ。


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