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ある科学者の憂鬱(5)


私は、浩市を盗撮で監視・観察しているのだが、
盗聴・盗撮出来ない時は、私の推測になってしまう。
あの手術を施す時は残念ながら、盗撮も盗聴も出来ていなかった。
あくまでも、私の推測とお伝えしたい。

浩市は、麗華にどの様に伝えれば良いかを考えていた。
AIならば浩市の想う様にプログラムをすれば済む。
だが、麗華には人間の頭脳が入っているのだ。
AIとは違う人の感情や倫理観が有る。
浩市は、自分の決断が間違いだったかと、思っていたが
後悔の感情を出すことも無く、素振りにも出さなかった。

浩市は麗華を自宅のマンションに住まわせた。
浩市のマンションは、高級マンションで、セキュリティも万全である。
浩市の部屋は、3LDKで8階に住んでいる。

麗華の動きは、人間の動きと変わる事がない。
誰もサイボーグとは気付かないし、サイボーグの存在など
誰も信じないであろう。
浩市は、苦慮の末、道子に本当の事を伝える事を決断した。

浩市は麗華を椅子に座らせ、麗華の瞳の奥を見つめた。
強い想いを込めて
「道子さん、私の話を聞いて欲しい。君は、人間の様に見えるが本当は、
私の作ったサイボーグなのだ。」
と、包み隠す事も無く事実を道子に話した。

道子は、何をどの様に考えて良いのか理解出来ていない。
だが、しばらくして
「私はロボットになったのですか?」
と、聞いてきた。
「ロボットは全て機械だが、サイボーグは人間の一部が含まれて
いるのだよ。君の場合は、麗華に君の頭脳だけを移植したのだよ。」

「身体は、ロボットで私は頭脳だけなのですね」
と、理解したかどうかは判らないが、浩市の言葉を反復して言った。

「そうだよ。君の身体は麗華であり、これからは、麗華として生きていくんだ」

「道子では、ダメなのでしょうか?」
と、素直な疑問で有る。
「道子ではダメだ!君は麗華として生きていかなければ
違う人生を歩めない!君は私の妹、新美麗華だ!」
強い語調であった。また、強引でもあった。
何故、浩市が名前にこだわるのか、不思議に道子は思ったが、
新美麗華と言う音に高貴な響きがあり、浩市の言葉通りに承諾した。

「私は、新美麗華。貴方の妹なのですね。」
と、少し恥ずかしそうに言った。
浩市の妹になれて嬉しい想いが、あったのであろうか?

「麗華に伝えておくが、先ほども言ったが、君は頭脳だけだ。
後は全て機械だ。だから食事もしなくても良いし、排泄も無い。
だが、人前で食事をしないといけない時は、食べても問題はない様に製造してある。
睡眠は脳を休ます為に必要だが、身体には休息は必要が無い。
君の身体能力は、まだ検証していないので明確では無いが、人間の数倍以上だ。もしかすると、それ以上かも知れない。」

麗華は、黙って聞いている。
ひとつひとつの言葉に、うなずきながら。
「私がサイボーグを作ったのは、人類の為、平和の為に
サイボーグを作ったのだ。麗華、協力してくれるね!」
と、心にも無い事を伝えた。まさか本当の事を言えるはずが無い。
「麗華は復讐する為に製造した」と、口が裂けても言えない。

「平和の為に私はロボットになったのですね?
人のお役に立つ事が出来るのですね!」

「そうだよ。麗華、君はスーパーウーマンだよ。
空を飛ぶ事は出来ないが、君の身体能力はスーパーマンに匹敵するよ。今から試してみよう。」
と、浩市は麗華の手を取り、腕相撲をしてみた。

「いいか、いくぞ」と渾身の力を浩市は入れたが、麗華の腕はピクリとも動かない。
「少し力を入れてみて。」と、浩市は言った。
「少し」と言ったのに、物凄い力が浩市の腕をねじ伏せた。
大きな怪我こそ無かったが、浩市は湿布を張った。

浩市は、自分の身体を使った事を、反省した。
今度、実験する時は、他人の身体を使うことを強く決意した。
だが、浩市に友達はいない。

「次はこの冷蔵庫を持ち上げてくれ。」
大きな冷蔵庫で、100kg以上は有るが、麗華は軽々と持ち上げて見せた。
実験は大成功で有る。浩市は自分の類い稀な天才性に、酔っていた。

しかし、麗華に冷蔵庫を持たせた為に、中に入っていた、食品や、飲み物が散らばり、後の掃除が大変であった。
洗濯機にすれば、と思ったが後の祭りであった。

https://note.com/yagami12345/n/n4193d7c3a2df

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