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猫になった宇宙人(11)


猫になった宇宙人(11)

少女は生まれた時から、病弱だった。
今、病んでいるのは、心だけでは無く、身体の痛みだった。
口には出していないが、心の中では「痛い、痛い」と
いつも言っている。

その悲鳴を聞くたび、私はどの様に対処すれば良いのか分からない。私達の星では、痛みと言うものが存在しない。
地球に来て少女の声を聞いた時に、初めて痛みの存在を知った。

だが、私も猫になったおかげで、初めて痛みの経験をすることが出来た。
それは、食べ物を与えられ、美味しさのあまり食べ過ぎて、
お腹を壊してしまったのだ。
腹痛など初めての経験であった。

少女は痛みをこらえていた。
また、その事を人に言うことも無く健気に暮らしている。

私は、心の声を聞く能力がある事が、こんなに辛い事だと初めて知った。

今日も少女は学校を休んでいる。

母親が突然、少女の部屋に入って来た。

怒っている。
「また、休んだの!こんな事で卒業出来ると思っているの?」

少女は泣いていた。心の中で泣いていた。
(何故お母さんは、私が学校に行かない理由を分かってくれないの?
イジメがどんなに辛い事だと言うことをお母さんは知らないの?)

少女の心の声を母親は、当然ながら聞くことは出来ない。

「今からでもいいから、学校に行きなさい!
 お母さんが連れて行ってあげるから。早くしなさい。」

(本当にしょうがない子ね。誰に似たのか?私では無いとしたら、
父親だけど、その父親が誰か分からない。)

嫌な声を聞いてしまった。少女の父親は不明なのか?
だが、父親が分からなくても、少女は存在している。
幸せになる権利だってあるはずだ。

少女は母親に連れられ学校に行った。
少女が気に掛かったが、猫が学校に行く事はできない。
今日は、母親の側にいて観察しよう。

母親が帰って来た。時刻は午前九時四十五分
母親は遅い朝食を取っている。一人で。
達也は既に会社に出かけ、朋子と孝太郎は昨日から家に帰っては
来なかった。

律子の心の声が聞こえてくる。
(私は何の為に生きているんだろう。家庭を顧みない夫。
子供といえば、親不孝ものばかり。おまけに、雅子は精神異常。
あ〜あ、本当にどうしたらいいのだろう。
何故この様になってしまったのだろう)

律子も不幸な一人の女なんだな〜と感じた時、急に律子が不憫に
思えた。最初は少女の気持ちも分からない毒親と、冷たい視線で見ていたが、律子の立場に立てばその気持ちも分からない訳では無い。

しかし、この様な家族関係にしたのは、律子の責任も少しはあるであろう。他の人だけに責任を押し付けるのはおかしな話ではある。

律子は一人で食事を済ませた後、テレビを見ながら、掃除をしている。居酒屋は午後五時に開店するが、その準備は午後の一時ごろからだ。居酒屋には律子と店員の女が一名いるが、料理は律子が作っている。
私は猫の為、店には行ってはいけない。
その事は少女からキツく言われている。
行くなと言われると、行きたくなるのが、猫情と言うものだ。
いつかはきっと行ってみせると心で思っていても、少女にはバレない。












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