不思議な香水(ユニシロシリーズ)(二分で読める小説)
モテない僕に朗報が舞い込む。
それは、男の付ける香水。
これを付けるとモテモテになるというのだ!
そんな事は信じられないが、「溺れるものは藁をも掴む」
の言葉通り、僕は紹介された店に行く。
店の名前は「ユニシロ」
店に入ると、お客は誰も居ない。
店内は薄暗く、不気味な雰囲気。
…キモいから帰ろう…
と、思った矢先に明るい男の人の声
「いらっしゃいませ。何かご入用ですか?」
と、笑顔で揉み手をしながら近づいて来る。
この店の店長だと名乗る男。
「あの・・・。ここに男が付ける香水が有ると聞いてきたのですが・・・」
と、恥ずかしげに聞く僕。
「男物の香水ですか?・・・・。」
と、男は少し上を見上げながら言葉に詰まっている。
そして、
「有るには有るのですが、どの様な目的で使われるのですか?」
と、訳の判らないと事を聞いてきた。
「香水は身体の匂いを消す為でしょ」
と、僕は本心を隠し、反論するかの様に応えた。
「確かに、身体の匂いも消せますが、この香水はそこら辺に有る香水とは訳が違うのです。
もっと大事な事があるのです」
と、男が言う。
…聞いていた通りの香水か…
との思いが胸に湧く。
「この香水は女性の心を鷲掴みにする香水です。
これを使えば、モテモテになる事請け合いです。
しかし、これを付ける男の心が大事になります。
モテることで女性を粗末にしたり、裏切ったりすると、
必ずその人に不幸が訪れます。良いですか?
必ず不幸が訪れるのです。
それでもお買いになりますか?」
と、男の目から笑いは消え真剣な眼差しで言う。
「僕は、今まで女性にモテた事は一度も無いし、
付き合った女性もいません。
もし僕の様な男でも女性が来てくれたなら、
真剣に交際します。
この香水を買います。
お幾らですか?」
「そうですか、貴方の決心がこれほど強いのなら、
この香水をお売りしましょう。
通常は10万円ですが、今日は3万円で結構です」
と言われ、僕はこの香水を買って帰る。
家に帰り直ぐに香水を付けて見るが、
僅かに柑橘系の匂いがするだけだ。
これを付けて街に出かけよう。
僕はモテモテの男になるはずだ。
毎日、僕は香水を付けて街をうろうろしていた。
ある日
一人の老婆が僕から離れようとはしない。
不思議に思って、老婆に尋ねてみた。
老婆が言うには
「お兄ちゃんの匂いが素晴らしいのです。
私は貴方に恋をしました」
と言うのだ。
…私には、無理です。年齢が違いすぎます。…
と言いかけたが、あの男の言葉を思い出す。
…この人を粗末にすると、僕は不幸になってしまう。…
僕は不幸になるのが怖くて、老婆と仲良くなってしまう。
介護の生活は本当に辛い。
だが、もう少しで寿命が尽きるはずだ。
僕は自分に言い聞かせて我慢に我慢を重ねた。
「店長良かったですね、お母さんを介護してくれる人ができて。」
と、無表情に言う女店員。
「そうだな、あの様に噂を流せば、
誰か一人くらいはモテない男が引っかかるよ。」