依存症の薬(ユニシロシリーズ)(3分で読める小説)
最近、僕は変な病に取り憑かれた。
何か物を書かないと、落ち着かないのだ。
不思議な事に夜中でないと、書けないのだ。
困ってしまう。
こんな事をしていたら、絶えず寝不足だ!
そんなある日、僕の小耳に挟んだ噂があった。
ユニシロという雑貨店に行けば、何でも有ると言うのだ。
僕はユニシロに行く通り道、
🎵そこに行けば、どんな夢も叶うというよ
と、歌いながら歩く青年と出逢う。
だが、その歌は古い。
今どきの青年が歌う歌では無いはずだが?
と、不思議に思っていると
青年が出て来た店の看板に「ユニシロ」
と、書いてある。
…ここか!ユニシロと言う店は…
僕は、店の中を静かに覗き込んだ。
客は居ないみたいだ。
それほど、広くはなさそうだ。
大柄な女が、歌を歌っているのか?
変な歌が聞こえてくる。
僕は、店の引き戸を開け、
「ごめんください」と、元気よく言った。
女は僕の顔を見て、歌うのを辞めてこちらにきた。
無表情の女。
まるで、死人の様な女。ここの店員みたいだ。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
と、機械音の様な声。
「『この店には、なんでも有る』とお聴きしたのですが?」
と、謙虚に言ってみた。
「全ての物があるかどうか解りませんが、何が御要り用ですか?」
「最近、物を書かないと落ち着かないのです。
もしかすると、物書き依存症かも知れません。」
「物書き依存症ですか?聞き慣れない言葉ですね。
でも、依存症に効くと言われているお薬がございます。
こちらへ、どうぞ」
と、案内されたところは、陳列棚の有る場所だった。
女店員はある薬の様な物をひと瓶差し出したきた。
そこには、錠剤が入っている。
「これは、記憶を消すお薬です。
嫌なことがあったり、辛い事がある時に、これを一粒飲むと、
その事を忘れてしまう事ができるお薬です。」
「忘れる薬ですか?でも忘れても根本的な治療にはならないでしょう」
「いえ、飲み続ければ、いや事は全て忘れてしまいます。
記憶が無ければ、何も恐れる事は有りません。
この商品は皆様に大いに喜んでいただいております」
と、無感動で表情も変えずに淡々と話してくる。
「嫌な記憶だけ消すのですか?全部の記憶が消えたら
大変な事になります。」
「ところが、全部の記憶を消す事は無いのです。
自分が嫌だと思っている心だけ消すのです。」
その言葉に疑いを持ってはいたが、
藁にもすがる思いの僕だった。
「本当にそうなら、ひと瓶下さい。」
と、僕は決意して買った。
高額の商品だったが、
これで物書き依存症とはおさらばできる。
僕は毎日この薬を飲み続けた。
一月分の薬だ。1カ月は様子を見よう。
だが、僕の物書き依存症は治まることが無い。
何にも効かないじゃ無いか?
と、腹立たしい思いでいっぱいになった。
だが、不思議な事が僕の身に起こる。
いつも側にいる女は誰?
もしかして、僕の嫁さん?
そういえば嫌だと思っている心の記憶を
消すと言っていたな、あの女店員は。