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今こそ知ってほしい、政治献金をネット上でオープン化させた、台湾の市民たちの話

VoicyのプレミアムリスナーさんたちとLIVE配信でお話していたら、急に「過去に雑誌へ寄稿した話を今こそ伝えなければ!」と思い立ち、このnoteを書いています。

(音声の方が良い方は、Voicyでも同じ話をしておりますので、そちらをどうぞ。)

2020年冬号の『週刊文春WOMAN』への寄稿

『週刊文春WOMAN』2020年冬号に

オードリー・タンの台湾に学ぶ
社会を変革する「アクション」の起こし方


というタイトルで4ページ、政治献金のデジタルオープン化について寄稿させていただいたことがありました。

デジタル版は今でも見られますので、こちらからどうぞ(すごい厚みのある内容なのに、デジタル版499円。本当に頭が下がります)。

その寄稿に編集部が付けてくださったリードと呼ばれる「まえがき」部分を引用させていただきます。

「桜を見る会」を巡る国会答弁で、前首相が在任中にウソを繰り返していたーー。

この報道を目にしたとき、「どうせ、そうだと思ってた」と、受け流しはしなかっただろうか?

 前号の台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン(39)の記事は大きな反響を呼んだ。中でも多かったのが、「日本の現状に諦めていたが、台湾の話を読んで『社会は変えられる』と思えた」という声だ。

 台湾には、民間から社会を変えるシビックハッカーがいて、その数は世界でも三本の指に入るといわれる。彼らはどんな活動をしているのか。オードリーの解説とともに紹介する。

出典:『週刊文春WOMAN』2020年冬号

ハッとしませんか?

私たちは、「桜を見る会」の痛手を忘れ、また今回も諦めようとしているのかもしれません。それはまるで主権がこちらにあることを忘れ(させられ)ているのかもしれません。

私自身もうっかりするところでした。
「どうせ名目や形だけ変えて、変わらないんだろうな」と、思いかけていました。せっかく台湾に住んでいるのに、ダメですよね。

今日は、当時書かせていただいた内容の一部と、加筆により、政治献金をネット上でオープン化させた台湾の市民たちの話をご紹介します。

今こそ知ってほしい、政治献金をネット上でオープン化させた、台湾の市民たちの話

「政府は国民のためのものなのに、説明をせずに進めるのはおかしい」と、立ち上がった市民たち

オードリー・タンさんがデジタル大臣として入閣した2016年からさかのぼること4年前の2012年に設立され、彼女が今でも参加し続けるシビックハッカーコミュニティ「g0v(ガヴ・ゼロ)」

「g0v(ガヴ・ゼロ)」という名称は、政府の略称が「government」に由来した「gov」であるのに対し、彼らは“政治をゼロから再考する”というスタンスを表したものです。

“政府が上手にできないのなら、そのお手本を見せてあげよう。政府がそれを良いと思ったら、そのまま取り入れれば良い”という感じです。

そんな「g0v(ガヴ・ゼロ)」が始まるきっかけとなったのが、2012年2月に行政院(内閣と各省庁を併せたものに相当)が打ち出した「経済力推進プラン(原名:経済動能推升方案)」の動画広告。

巷では「台湾史上最悪の広告」と呼ばれています。

「『経済力推進プラン』って何でしょうか?

私たちはわずかな言葉で簡単に説明して、皆様にご理解いただきたいと強く思っています。

ですが、わずかな言葉数では、こんなにたくさんの政策を説明することはできません。

なぜなら、経済発展のためには完璧な計画が必要であり、それでこそ経済は復活できるのです。だからこのプランはもちろん複雑になります。

重要なのは「たくさんのことが今、加速して進行中」だということです。

これを実行すれば、間違いない!」

(行政院「経済力推進プラン」の動画広告ナレーション・筆者拙訳)

開いた口が塞がらなくなるような内容ですが、これは当時の政府が実際に流した広告なのです。

これに対して、「政府は国民のためのものなのに、説明をせずに進めるのはおかしい」と、立ち上がったのが、4人のシビックハッカーたちでした。

彼らは、台湾Yahoo!が主催したハッカソンに参加し、政府の予算データをオープンデータ化して公開したのでした。

この辺りの流れや「g0v(ガヴ・ゼロ)」の活動については、拙著『オードリー・タンの思考』をご参照ください。手前味噌ですが私の知る限り、おそらく日本で一番詳しく書いている本です。

2014年に「ひまわり学生運動」で活躍が周知される

その後2014年に「ひまわり学生運動」が起こった時には、オードリー・タンさんを含む「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーの活躍で “多くの意見が見える化された”ことが、このデモの成功に大きく貢献しました。

「ひまわり学生運動」が起きたきっかけもまた、台湾で多くの利害関係者が出るイシューにも関わらず、政府が「急いで決めてしまおう」と、秘密裏で取り決めをしてしまったことにありました。

「ブラックボックスのうちに物事を進める行為は、許されることではない」という民意が、このデモで政府側にも少なからず伝わったという意味で、このデモは台湾の民主主義の歴史の中で成功し、かつエポックメイキングな出来事であったと言えます。

「ひまわり学生運動」については過去のnoteをご参照ください(拙著『オードリー・タンの思考』からの一部抜粋です)。

政治献金データを政府に公開させるまで

そんな「ひまわり学生運動」での直後に「g0v(ガヴ・ゼロ)」が着手したプロジェクトが、「政治献金デジタル化」です。

かつての台湾では、政治献金はそれを管轄する「監察院」院内のパソコンでしか閲覧することができませんでした。

後の法改正により、有料で印刷できるようになると、民間の有志らが立法委員(日本の国会議員に相当)7人分の政治献金の全資料を印刷し、それをスキャンした2,600枚以上のデータをUSBに入れ、「どうにか活用できないか」と「g0v(ガヴ・ゼロ)」に持ち込みました。

「ひまわり学生運動」での「g0v(ガヴ・ゼロ)」の活躍を目にしていたからです。

驚くべきことに、「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーたちはその2,600枚以上のデータを24時間以内という短時間ですべてデジタルデータ化し、プラットフォーム上で公開してしまいました。

彼らは、写真右側に見える、スキャンデータ上の数字を、入力フォームに記入するデジタル化の作業をひたすら繰り返しました。間違いのないよう、1枚のデータを5人でチェックしながらデータ化したそうです(出典:g0v)

その結果、台北市のお隣、新北市の市長選挙の際、当選した候補者が、当選後、「人事支出」の名目で、4日間で数百人に少額を渡していたことが明らかになり、論議を呼びました。

その他にもさまざまな議論が起き、2018年、ついに監察院は政治献金法を部分改正し、所蔵データをプラットフォーム上で公開することになったのです。

監察院によるオープンデータ。csvで出力できるものの、このまま使えるデータではなさそう。

「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーが素晴らしいのは、監察院がデータをオープンにしただけで物事を終わらせず、この監察院のデータを利用して、政治献金の流れが一目瞭然なデジタルプラットフォームを構築したこと。

ここ「數讀政治獻金」というサイトでは、過去12年間の立法委員選のデータが公開されています。

2020年1月に選出された議員のうち、最も多い政治献金を受け取っていた邱志偉氏(民主進歩党)の情報。

ここではそれぞれの立候補者の政治献金総額はもちろん、献金元の企業(子会社・関連会社含む)や団体名、その業界などが一目瞭然です。さらに、献金元が合致している他の立候補者のランキングまで出ています(真ん中のカラムの下側)。

さらに、「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーたちは、このデータを見た上で、分析記事なども作成しています。

それぞれの政党に献金している企業名やその額の規模

なぜパブコメは、政府だけに全ての意見が見えて、市民たちは他の意見が見えないのか?


「政府と市民が同じデータを見て、お互いの意見を交わす。それが対話の基礎です。そして、それこそが民主主義ですよね?」
というのはオードリー・タンさんを政府に引き入れたジャクリーン・ツァイ前大臣の言葉ですが(ジャクリーンさんについてはこちらの過去note参照ください)、

まさに「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーたちも、それを実践しています。

私自身、過去に日本のパブリックコメントに意見を提出してきましたが、その度に「なぜ、政府側からの質問に答える形でしか意見できないのだろう」「なぜ、自分の意見は政府関係者にだけ届き、他の人に見られることはないのだろう?」「なぜ、私は他の人たちの意見を見ることができないのだろう」という疑問を抱きました。

市民と政府間の見ているデータが違い、ブラックボックス化され、一方的に結果だけが知らされる。それは果たして民主主義なのでしょうか?

過去にnoteを書いた、台湾で効果を上げている市民参加型の公共政策プラットフォーム「Join」は、他の人の意見も見ることができます。

こんな感じです。大事なのは設計です。

社会を変革する「アクション」の起こし方が、どうか日本に届きますように。


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