手負いの貴乃花を彷彿させる白鵬鬼の形相
大相撲名古屋場所が千秋楽を終えた。白鵬が全勝で45回目の復活優勝。14日目の正代戦の奇策から異様な雰囲気だった。しかしものすごいものを見せてもらった。誰もが照ノ富士復活の浪花節を期待していたはずだ。しかし白鵬は見事に満場の期待を裏切るシナリオを全うした。優勝した瞬間の形相は、手負いの貴乃花が優勝決定戦で武蔵丸を破った鬼の形相を想起させた。そして客席のご家族、特に奥さまの涙を見て、どれだけ白鵬とその家族に世間からのプレッシャーがかかっていたかを実感させられた。優勝インタビューで「燃焼し尽くしたので引退する」と宣言するのではないかとハラハラドキドキしたが、それはなくホッとした。照ノ富士は14勝とハイレベルな準優勝で横綱昇進は確実。むしろ白鵬に敗れたことで、モチベーションが継続したのではないだろうか。
他に特筆すべきは技能賞の豊昇龍と敢闘賞の琴の若の成長。そして大器・北青鵬の十両昇進確定の幕下全勝優勝。公約の一年で関取は驚愕。阿武松部屋では部屋頭の阿武咲も、ご贔屓の慶天海も残念ながら負け越し。しかしながら今場所で最も印象に残った取り組みは、残念ながら2日目の炎鵬vs.貴源治戦。小さな炎鵬を下からアッパー気味に何度も張り手を食らわして脳震盪に追い込んで、取り直しで不戦勝。観れば実感するだろうが、あまりにあんまりだと感じた。白鵬の立ち合いは勝負の駆け引きの範疇だと思う。もちろん張り手は禁じ手ではない。グーで殴らなければ合法だ。いくらなんでも限度があるのではないかと感じさせるアッパー張り手の連続だった。