日本は心の詩人、谷川俊太郎という宝石を喪った💎
谷川俊太郎先生がお亡くなりになったニュースが流れた。今の日本で最も有名な詩人だったのではないだろうか。自分はあまり詩に馴染みがないが「みみをすます」には惹かれた。そしてもう一つの顔が翻訳者であった。最も愛された作品が「SNOOPY全集」だった。谷川俊太郎先生とは、復刊ドットコムの仕事で何度も絡んだ。自分の中では藤子不二雄Ⓐ先生、大海赫先生と並んでイベント多頻度3本柱だった。だからいろいろと思い出がある。
それというのも復刊ドットコムで「SNOOPY全集(全10巻)」を復刊できたから。それで代官山蔦屋書店、TSUTAYA天神店、千葉の会留府などでサイン会やトークショーを何度も開催した。回数が多かったので、先生に「もうSNOOPYはいいよ」と言わせたほどだった。それでもイベントの度に、先生とお会いできた感激に咽び泣く女性ファンが多かった。それ以外にも文字の入っていないイシュトバン・バンニュイの絵本「ZOOM」がヒット。地球を遠いところから、接近しながら眺めるという内容。先生が「面白い」と言って下さったので、先生が「ZOOM」について書かれた詩を付録冊子として付けるという荒技を引き受けて下さった。
谷川俊太郎先生は中央線沿線にお住まいだった。初めてご自宅にお邪魔した時には、日本最高の詩人への復刊交渉でドキドキした。かつては何度か女優や女性作家と結婚されていたので「俺はモテる」と自称されていた。しかし私が行った頃は、死別や離婚で、お一人で住まれていた。「洗濯したり、スーパーの買い物にも行かれるのですか?」と訊くと「当たり前だろ」と返された。当たって砕けろで、復刊リクエストの入った本(主に絵本)の刊行を片っ端から打診したところ、そのほとんどがOKだった(一部の本で元の出版社が許諾🆖もあった)。先生には「そんなに欲張らないで、少しずつやろうよ」と嗜められたものだった。果たせなくて無念だったのは、日本生命のCMに使われた「愛する人のために」の絵本化。「愛情をお金であがなうことはできません。 けれどお金に、愛情を込めることはできます、生命を ふきこむことはできます」で始まる詩。これを何としても学校教育で、子供たちに供したかった。先生も日本生命もOKして下さった。できれば佐々木蔵之介が出演していた実写静止画像を使いたかったが、解像度の低い動画しか残っていなかった。かようにフランクな方であったが、編集部員たちは神格化してしまっていて腫れ物に触るように接触していた。『馬鹿だな、そんな人ではないのに』と、つくづく思ったものだった。
何度かお食事もご一緒させて頂いたが、野菜中心の食事を好まれた。ただ健康のために1日1食主義を守られていた。そのサイクルに上手く合わせられなかったタイミングでの食事会は、先生はワイン🍷だけをお飲みになった。同席していた書店員さんたちが「私たち食べていいんでしょうか?」とモジモジしていると、「あゝ、私が勝手に食べないだけなので、貴女たちはドンドン食べなさい」と泰然とされていた。先生が食べないので、ワインを飲み終えた時に「先生もう一杯」と言ったら「トークショーの前に酔っ払っちゃうよ」と自重された(でも結局もう一杯飲んだ)。自分が先生の前で最も恥ずかしい思いをしたのは、代官山で地下の割烹で食事した際に「階段にお気をつけ下さい」と後ろを振り返って言いながら、階段を踏み外して頭から転落したことだった。おまけに両手にお土産の袋を持っていて大散乱、先生が「あーっ、大丈夫か君❗️」と大きな声を上げて駆け寄って下さったのが忘れられない。食事の際に「何が気をつけてだ」と散々笑われた。先生はずっとお元気だったので、永遠に生きていると思っていた。われわれは最も親しみやすい、心の詩人という宝石💎を喪った。