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梅崎司『15歳 サッカーで生きると誓った日』(徳間書店)

梅崎司『15歳 サッカーで生きると誓った日』(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
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 サッカー選手が著者の本だけど、この本は決してサッカー本ではない。もちろんサッカーについて書かれた本ではある。しかし本質は暴力を母親に繰り返す父親のいるDV家庭からの脱出本である。そのための解決策がサッカーであったのが、梅崎司選手であった。冒頭から父親が母親を殴り、虐待する衝撃のシーンから始まる。諫早で父親の暴力に怯える少年にとって、サッカーだけが生き甲斐で、サッカーのプロになることだけが地獄からの脱出口だった。わずか15歳でプロになる決意をした。しかし息子のサッカーを否定し続ける父親。少年を支えたのは、母親の忍耐と擁護だけであった。血の滲むような努力を大分トリニータユースで続ける梅崎司少年を、認める指導者もいた。後戻りのできない必死さ、ゴールに殺到するギラつき、誰にも見えないところで励む練習と努力、どんな精神状態にあっても諦めない強さ。そこを韓国人のファンボ・グァン(皇甫官)監督は見逃さなかった。身体の小さな梅崎司選手を、周囲の反対を押し切って大分トリニータでプロに昇格させた。そして母と弟と一緒に、家を飛び出す日が来た。父親と離婚した後も、まだ先の見えない息子を経済的にも、精神的にも支えた母親。
 プロに入ったからといえども、決して道は平坦ではなかった。むしろより険しくなったと言っていい。プロの高い技術の壁、度重なる大ケガ。しかし梅崎司選手には、家を飛び出した母親と弟の生活を支えるという必死さがあった。諦めるわけにはいかないのである。並いる天才選手たちとは違って、ジワジワと頭角を表していった。その結果、強豪・浦和レッズから破格の条件で声がかかって移籍。さらにフランスのグルノーブルにも渡った。結果的に欧州では成功できなかったが、浦和レッズに戻って活躍の場を再び得た。U-20日本代表ではFIFA U-20 World Cup2007のベスト16進出に貢献。この結果、小学生時代の夢であった、母親に家を買って楽させるということが現実となった。Jリーグで活躍するようになった息子の試合を父親が観に来るようになった。かつてのトラウマから、それを素直に受け入れられる息子ではなかったが、何度かの面会や食事と共に、怨念の一部は溶けていった。
 梅崎司選手は、この本を出すに当たって、自分と同じ思いをしている少年たちのために本を出した。「生まれた瞬間に、その家が我が家なのは間違いないし、それを覆すことは絶対にできない。その事実は変えられない」。講演で自身の辛かった幼少期の体験を語った梅崎司選手は、その想いを文字という形にすることで、家庭環境の苦しみを共有して、光ある出口に共に歩もうとしているのである。結婚して、子供を持った梅崎司選手。自分は決して、過去の父親のようになるまいと自身を戒めている。そしてこの本に価値があることは、その苦しみの根源であった父親とも、過去を許せないなりに、向かい合おうとしていることなのである。

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