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憧れの高山宏先生の講義を卒業44年後に受講

大学時代は全く不勉強であった。語学の試験はクラスメイトに答案を見せてもらった。法学部なら1年生で取得する憲法を4年まで取らずに、同級生に試験のある日を偶然教えてもらわなければ落第していた。そんな自分でも社会に出たら『あゝ、あの先生の授業を受けておけばよかった』と思うことが多かった。それは自分が出版業界に進んだからで、自分の在籍していた学校に、どんなに優れた先生がいたか(特に人文学部)を後で知ったからだった。当時の東京都立大学は「教授は一流、学生は二流」とハッキリ口に出す先生もいたくらいだった(自分に関しては否定しない)。自分はファンタジー文学が特に好きだったので、高山宏先生の講義を受けなかったことは特に残念だった。高山宏先生は英文科の教授だったが、ルイス・キャロルの「アリス」シリーズ翻訳など多数の著作を出されている。

朝日カルチャーセンターのHPに掲載されている高山宏先生の写真
講義で弁舌を振るう高山宏先生


 そんなある日に知人の紹介で、出版業界繋がりのさる女性からSNSで友だち申請があった。知人の紹介だったので、もちろん承認した。承認御礼のメッセージをやり取りするうちに、彼女が高山宏先生の奥さまだとわかってビックリ仰天。ついでに朝日カルチャーセンターで、高山宏先生が講義をなさっていることを奥さまから聞いて、早速申し込み🈸。高山宏先生は夏目漱石に造詣が深く、演題は「令和に読む漱石(Ⅱ)『漾虚集』を精読する」だった。そもそも『「漾虚(ようきょ)集」ってなんだ?」。これは「倫敦塔」「カーライル博物館」「幻影の盾」「琴のそら音」「薤露行(かいろこう)」 「一夜」「趣味の遺伝」の七篇を含む短編集だった。「漾虚」とは「虚」を「漾 (ただよう)」という意味だそうだ。奥さまから高山宏先生に私の講義参加が伝えられて、「当てられるかもしれませんわよ、オホホホホ」と言われて焦る。読んでみるとチンプンカンプン。どうやらイギリス🇬🇧紀行文やアーサー王物語あたりを扱っているようだ。しかしどれも文語調で、まるで黒岩涙香の小説みたい。今まで読んだ夏目漱石と全然違う。

『漾虚集』を収録した夏目漱石短編集


 さて講義当日。憧れの高山宏先生は齢78歳ということだが、マントなんか羽織ってすごくカッコいい。まるで魔法使い🧙みたいだ。この日の講義は「倫敦塔」「カーライル博物館」がテーマだったが、話題は自由闊達で課題図書にはほとんど触れない。1列目の受講者にバンバン質問する。どの問いも、英文学研究者でないと答えられないような内容ばかり。幸いにして当てられなかったが、訊かれたら「わかりません」としか答えようがなかった。中には「近親相姦はしたことがあるかね?」「麻薬の経験は?」など絶句するような質問もあった。ホワイトボードに書くメモのほとんどは外国語。ちっとも読めない、読めても自分には意味不明。それでも聴いていて面白い。おまけに90分の予定が超過して、135分もの長尺講義。次に宴会の予定があったので、内心困った。本講義は3回の予定で、2月、3月にもある。その際は『漾虚集』残りの5作品を扱う予定。講義が終わってから高山宏先生にご挨拶。「あゝ、妻が都立大出身の人が来る言っていたが、君だったのか。次は当ててあげるよ」。内心で『いえ、先生結構です』。

高山宏先生が書いたホワイトボード

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