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上田秀人「大奥騒乱(新装版)」

上田秀人「大奥騒乱」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 第10代将軍家治の寵臣・田沼意次に、次期将軍への野望を絶たれて遺恨を抱く松平定信。田沼意次の息のかかる大奥を脅して、意次一派の失脚を図る。美貌の大奥表使い大島は、御広敷伊賀者同心・御厨一兵を手の者に貰い受ける。松平定信は腹心のお庭番・和多田要を一兵にぶつけてきた。大島は一兵に微禄を与えて、ありとあらゆる無理無体な探索を命じる。それでも伊賀者仲間から嫉まれ、浮いてしまう一兵。やがて大奥女中すわに将軍御曹司懐妊の噂が駆け巡り、事態は紛糾。誰がお世継ぎとなるかで、自らの処遇が一変する女たちは目が三角になってゆく。舞台裏で要をはじめ数々の刺客と死闘を繰り広げる一兵。修羅場を迎えて、誰が生き残るのか。そして生き残るためには、何を見究め、誰を信ずることができるのか。
 「死にたくはない。一度手に入れたものを失いたくない。もっと多くのものを手に入れたい。人というものはそういうものだ」。田沼意次のことばは、幕閣にとっても、大奥にとっても、伊賀者にとっても、誰しも同じ。そしてそのためには手段を選ばない。戦国時代と違って、天下泰平の世だからこそ、深まる権謀術数の闇。しかしそんな生存競争の中で、最後は守らねばならない矜持とは何か。己れさえ栄達すればよい、自分さえ無事ならよいという、醜くくも哀れな人間模様の中で、キラリと光る忠義あり。さすがは時代小説の達人・上田秀人、その筆の冴えに一本取られて泣かされる。

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