NHKスペシャル「横綱白鵬″孤独″の14年」
10月17日に放送されたNHKスペシャル「横綱白鵬″孤独″の14年」。1時間ものの引退後初の独占インタビュー。白鵬の横綱在位は前半が正統派の白の時代、後半が品格を問われる黒の時代に二分される。前半の白鵬は暴れん坊横綱である朝青龍を反面教師として、落ち着いた取り口で品行方正さが前面に打ち出されていた。そして協会の存亡を揺るがす野球賭博事件、八百長問題、そして東日本大震災への対応。常に一人横綱として、協会の矢面に立たされて、社会への贖罪という十字架を背負わされ続けた。
後半の黒の時代は、2015年初場所優勝会見で、13日目の稀勢の里戦での取り直しに対する審判批判からが分水嶺だった。以降は猫だまし、カチ上げに張り手、ダメ押し(ここまでは禁じ手でもなんでもない合法のはず)、万歳三唱、三本締め、ガッツポーズ(ファンサービスの一環であって、むしろ一部力士の仏頂面インタビューの方がよほど失礼だと思う)など横審からの批判に事欠かない。
番組では荒磯親方(稀勢の里)と北の富士に「横綱の品格とは?」と問い、二人からは確答を得なかった。荒磯親方は協会への遠慮なのか言葉を濁したし、北の富士からは定義がない=否定的なニュアンスの答えだった。白鵬本人からは「土俵上では鬼、土俵を降りたら優しい人間」という回答。番組としてはむしろ協会や横審への疑義だったように思える。自分も同感である。「品格」とは本来は横綱推挙の良き枕詞であったのに、今はハワイ勢の活躍以降で恣意的に持ち出される外国人力士牽制のための錦の御旗に堕している。敢えて言うならば「犯罪を犯さない」「反社会的組織とつきあわない」などの社会常識の範囲であろう。カチ上げや張り手を「品格」と論ずるべきではない。そもそも角力の起源は、野見宿禰と当麻蹴速の殺し合いである。私は白鵬は立派な横綱であると思う。抜群の戦績はもちろんのこと、誰よりも相撲史を勉強している。双葉山の「後の先」を研究もしていた。手弁当で白鵬杯を開いて相撲の普及に貢献したり、相撲を愛する心は群を抜いている。
番組での振り返りでは、モンゴル人力士の強さ故に日本人力士への身贔屓が、白鵬を非情な勝負に徹しさせた要因だったようだ。2010年九州場所2日目に、稀勢の里が白鵬の連勝をストップさせた時に起こる会場の万歳三唱(これは観ていて日本人として恥ずかしかった)。その時の控えにいた白鵬のなんとも言えない表情。強過ぎる故の反感もあったと思う。同じように「強過ぎて憎たらしい」という印象が北の湖にもあったから。その反発は大鵬にも感じた。北の湖には『土俵に落ちた負けた相手に手を差し伸べるのは負けた相手に失礼』という信念もあった。それでも『日本人に好かれたい』と思い詰めた白鵬の気持ちは、あまりにも不憫である。稀勢の里に優勝がかかった時に『自分が休めば日本のファンたちは喜んでくれるのではないか?』と呟いたと周辺の関係者は言う。そのことを最も強く理不尽に感じていたのは、ヒーロー側にいた稀勢の里だろう。だから稀勢の里はいつもモンゴル力士を称え、悪く言うことはない。
https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/trailer.html?i=31319
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