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神は人と人との心の繋がりの中にいる

尾久キリスト教会の高橋武夫先生による10月3日の礼拝説教。題材は旧約聖書のルカ伝第17章20〜25節。題して「神の国はあなたがたのただなかに」。
 ある家族は、夫の母親と同居していた。しかし老いた母親は認知症が進み、食事中に食べ物や飲み物をこぼしたり、倒したりすることが多くなった。ある日、配られて牛乳を母親が倒してしまい、息子は母親を怒鳴りつけ、母親だけは部屋の隅にある別のテーブルで食事させるようにになった。ある日、息子の幼い娘が絵を描いていた。「何を描いているの?」「将来のおうち」。その絵の隅には小さな机が離れて描いてあった。「これはパパの机ね」。その絵を見た時に、息子は自分が母親にした残酷さに気づき号泣したそうだ。
 自分は川越少年刑務所の教誨師だったことがあった。入ってくる少年たちが辛いことは、重い作業でも、貧しい食事でもなく、独房でないことだと言う。これまで勝手気ままに生きてきた彼らにとって、受刑者同士で共同生活しなければならないことが苦痛になる。その生活は個ではなく、集団の一部となってしまうから。
 ある大学病院に愛さんという付き添い婦がいた。今でこそ、付き添い婦などという職業はなくなったが、昔は必須の職業であった。俳優の笠智衆などは付き添い婦と散歩していた際に「今日はお手伝いさんと散歩ですか?」と近所の人に言われると、ブンブン手を振って「この方は私の親友です」と説明したそうだ。愛さんの父親は早くに亡くなったが、母親は絶世の美女だったそうだ。しかしその母親は、愛さんを醜い娘と毛嫌いして、親子で歩く時にすら遠ざけたそうだ。そして器量良く生まれた妹を溺愛したそうだ。その妹が早逝した時に母親は「なぜ愛を先に迎えに来なかったのですか?」と恨んだとのこと。しかしやがて母親が歳を取り、認知症になった時に、他の娘息子たちは面倒をみず、愛さんだけは懸命に母親の世話をしたそうだ。その時の愛さんは「私は幸せでした。なぜならその時に母親を独占できたのですから」と語ったという。
 ルカ伝17章は、神の国の所在をあなたがた自身の心の中にあると説いた。それは「あなた」ではなく「あなたがた」であった。つまり人と人との交わりの中にこそ、神の国はあるのだと言う。

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