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赤松利市「救い難き人」
赤松利市「救い難き人」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
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在日朝鮮人を親に持つ満寿(マンス)。しかし帰化しなかった母・満子は、帰化した父・ヨンスクに籍は入れてもらえなかったので、姓は坂本。父はパチンコ屋を営む富裕者で妾のような扱いを受けていた。しかし祖国への誇りが朴満寿と名乗らされる。そのことで学校で虐めを受ける。また夫婦の首絞め蜜戯によって母を喪ったマンスは、父を激しく恨む。そこに目をつけた、在日朝鮮人が集まる黒里団地の井尻ノブ。主婦売春の元締めで学生時代から儲けていた彼は、マンスを懐柔して唆し、ヨンスクの会社乗っ取りを狙う壮大な計画を立てる。ノブの敷いたレールをひた走り、やがて金と怨念の亡者である怪物が誕生する。
ありとあらゆる意味で、これくらい露悪的でエゲツない小説を書く作家はいないだろう。目的のためには手段を選ばない。大多数の人間のダメな部分、浅ましい本性、何かに縋る弱さ。生き残るのは、冷静かつ非情な者たち。この作品が怖しいのは、そんな定石すら飲み込んでしまいそうな激情と怨念の渦。まさに作品を貫くメインテーマである「恨」である。タイトルの『救い難き人』。本当の意味でそれが誰であったかは、深い余韻の中で明かにされていない。路上生活から62歳で作家デビュー。大藪春彦新人賞が生んだ最後の無頼派作家・赤松利市の到達点。
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