本屋大賞受賞の宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」
宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)。ご存知2024年本屋大賞を受賞した本。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/成瀬は天下を取りにいく-宮島未奈-ebook/dp/B0BTCW4JK5/
読んでいて、ついついプッと吹き出して笑ってしまう。小説界に一風変わった新たなヒロインが誕生だ。主人公である成瀬あかりの突飛な発想。西武大津店の再興、寿命200歳、M-1挑戦、丸刈り登校など、どれもぶっ飛んでいる。とても年頃の女の子とは思えない奇行。ホラ吹きと呼ばれれば否定もできない。しかし彼女の言うことは、立派に筋は通っている。常にゴーイングマイウェイの潔さ。比べることが適切かどうかはわからないが、淡々と暮らす鍋倉夫「路傍のフジイ」の主人公のような雰囲気も持ち合わせている。
何よりタイトルが素晴らしい。キャッチコピーの力は横綱級だ。ある書店さんが言っていたが、凛々しい乙女イラストとタイトルのマッチングがウケた。つまり本の外側からして、読む前から心を鷲掴みにされる。成瀬が相手の苗字を呼び捨てにするのも青春っぽくていい。中身は軽いのかという危惧もあったが、終盤に入って、決して成瀬が他人の心を無視して生きていたわけではないことがわかる。そして親友・島崎みゆきが、どれほど成瀬に期待をかけていたかも熱く伝わってくる。先ずは未来の可能性にチャレンジする成瀬に、人と人との関係にばかり気を取られて小さくまとまってゆく窮屈さから、島崎は解放されたのだろう。その意味でこの小説は、成瀬と島崎のビルディングロマンス。ある意味で二人の対極にいる大貫かえでの存在も大事。思わず続編「成瀬は信じた道を行く」にも手が伸びた。