惚れっぽいオンナ
ひさしぶりに恋愛小説を読んだ。
若者のそれではない。主人公は、いわゆる「大人のかっこいいオンナ」。仕事にも暮らしにも自分にも自信をもっていて、胸を張って生きている現代の女性である。か弱い女や男にちやほやされて喜んでいる女に興味はないが、こういうかっこいい女の話には興味がある。ストーリーにはすぐに引き込まれた。
主人公に感情移入し、彼女の仕事ぶりに感心しながら読んだ。彼女の夫の大人げない言動にあきれ、理不尽な要求に腹を立て、彼女が彼女らしく生きることを応援しながらページをめくった。
そう、とてもおもしろかったのだ。
その本の、ちょうど真ん中あたりまでは。
ところが、である。
急に冷めた。
彼女はついに夫に見切りをつけた。それはいい。我慢に我慢を重ねて生きるよりも賢明かもしれない。違和感はそこではない。気持ち悪さを覚えたのは、彼女が夫と別れる決意を固めながら、同時進行で手近な男に惹かれていったからである。
えっ、ちょっと待って……。そんな安直な……。
思わずそう叫んでしまった。
手近な男がめちゃくちゃ魅力的であるなら、まだしも救いがある。でも、そうは思えなかった。男は、仕事をしている姿はそれなりにかっこいい。口にする言葉も垢抜けている。だが内面はどうだろう。自分の感情を彼女に押しつけようとする。子どもっぽくてわがままな言動が目立つ。年齢の割に成熟の度合いが低く、自分本位な性格に思える。どこにでもいそうな底の浅い男じゃないかという気がする。
夫に圧迫感を感じ、そこから逃れて自由になりたい彼女が、また新たに別の自分本位な男に惹かれていくものだろうか。
夫とは違う優しさを見せられたからと言って、そんなに簡単に気を許すものだろうか。夫にはない性的な魅力を感じたからといって、易々と体を開くものだろうか。
世の中には依存体質の女というのもいる。
とくに若いうちは、男に甘えたい、頼りたい、寄りかかりたいという願望をもちやすいことは一般論として知っている。こういう女であれば、男から男へと渡り歩いていってもおかしくはない。
けれども彼女は、少なくとも前半は、自立心のある賢明でかっこいい女だった。そんな女が安易に恋愛になんぞハマるだろうか。と私は強く疑問に思うのだが、この小説は私を置き去りにしてどんどん進んでいった。
ま、恋愛は主観の最たるもの。
そんなのおかしい!と文句をつける方が間違っているのだろう。
そもそも私は非・恋愛体質である。男に期待しないし、ちやほやされたくもない(されたくてもされない、が正しいと思う)。そんなだから彼女の心の機微についていけないのだ、と言われたら反論のしようもない。
それにしても、である。かっこいいオンナが急速に色あせていったのには、まいったなぁ。